| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-327  (Poster presentation)

花粉DNA Barcodingによる植物園の送粉環境評価:ポリネーターガーデンと域外保全の模索
Evaluation of pollination environment in botanical garden using Pollen DNA barcoding: balancing with ex-situ conservation and the pollinator garden

*堀内勇寿(筑波大学・生命環境), 上條隆志(筑波大学・生命環境), 田中法生(国立科博・植物園)
*Yuju HORIUCHI(University of Tsukuba), Takashi KAMIJO(University of Tsukuba), Norio TANAKA(Tsukuba botanical garden)

 近年、生物の代替生息地として都市緑地の役割が注目されている。植物園は都市緑地の一つに分類できるが、多種の同所的植栽と域外保全を兼ねる点で通常の緑地と異なる。一般的な都市緑地を用いた生物保全の試みの一つにポリネーターガーデンという野生送粉者保全のための採餌場創出があり、植物園は副次的にその機能を持つ。植物園環境は種の位置特定が可能なため、ポリネーターガーデンで懸念される植栽種間の繁殖の問題の特定が容易である。本研究では、未確立であるポリネーターガーデンの評価方法の模索のために、送粉者の付着花粉をDNAによる種同定に基づき、客観的に送粉ネットワークや送粉パターンの評価を行った。
 2018‐19年(9月下旬‐11月初旬)に、国立科学博物館筑波実験植物園内にて小型粘着トラップ用いて、行動圏が広く園内の広範囲で採集できたヒラタアブ類を標的種として採集した。体表付着花粉のDNAのITSとrbcL領域の塩基配列に基づき、相同性検索および園内の開花状況を考慮して種同定し、位置特定可能な場合は最小送粉距離・経路を算出した。
 付着花粉からは70種が検出され、個体レベルの二部ネットワーク解析から多種への訪花履歴が確認された。植栽種では主に開花サイズの大きな樹木種が共通していた。一方、園外由来のセイタカアワダチソウが最も多くの個体に付着し、付着確率は園内外縁部ほど増加した。また、送粉距離の中央値は120mで、潜在的な送粉経路は園内中心の開放域に集中した。開放面積に伴い送粉距離が短く、地点あたりの合計花粉種数が増加を示した。
 算出送粉距離に反して常時開花植物を展示するエリアからの花粉の検出量は少なかった。また、植栽種花粉の過度な優占はなく、植栽種間の相互作用は強くないことが明らかになった。一方、過度にセイタカアワダチソウ花粉が優占していたことは、繁殖干渉等の保全上の問題が、時期によっては園外環境に起因する可能性が示唆された。


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