| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-339  (Poster presentation)

『森は海の恋人』はほんとうか?陸が海に与える影響を統計的因果推定で検証する
"The sea is longing for the forest" is real? Statistical causality tests between land and sea

*伊勢武史, 大庭ゆりか(京都大学)
*Takeshi ISE, Yurika OBA(Kyoto Univ.)

感情論で語られることの多い環境問題。「○○を守るために××しよう」などの活動は多いが、そもそもその二者はつながっているといえるのだろうか。これを科学的・客観的に考える際に欠かせないのが因果推論である。『森は海の恋人』という言葉がある。豊かな海を守るためには森を守らなければならない、といった意味であるが、ここで仮定されている森と海のつながりをあつかった研究はほとんどないといわざるを得ない。森と海が川でつながっているのは一目瞭然であるが、森と海との距離は数kmから数百kmとバリエーションに富み、それぞれ規模が大きいので操作実験を行うことはむずかしい。しかも、流域には人間活動があり、海には海流があり、気候には変動があり・・・。ある場所の海の変化という目的変数に影響を与えている可能性を持つ説明変数は大量にあり、しかも説明変数同士で複雑な関係性を持っている。

このような関係性の一端を解きほぐすため、統計的因果推論を用いることにした。この手法では、全国の一級・二級河川から選定された233河川流域における正規化植生指数(NDVI)と、その河口部におけるクロロフィルa濃度のビッグデータを入手し、それぞれ20年近くにおよぶ時系列データを季節ごとに集計した。得られたふたつの時系列間に存在する統計的な因果関係を類推することで、陸と海はほんとうにつながっているのか、そのつながりの強弱を決める要素は何か、という疑問に科学的に答えるのが目的である。得られた結果は現時点では断片的であるが、この枠組みを拡大・応用することで、単なる思い込みではなく科学的なエビデンスにもとづいた自然や環境についての理解促進が期待される。


日本生態学会