| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S06-3  (Presentation in Symposium)

遺伝情報から見たニホンライチョウの分布変遷と脆弱性評価
Genetic differentiation of the Rock Ptarmigan in Japan

*西海功(国立科学博物館)
*Isao NISHIUMI(NMSN)

 ライチョウLagopus mutaは北極圏をとりまく周極域に分布し、ニホンライチョウL. m. japonica など31亜種に分けられる(BirdLife International)。31亜種は雄の夏羽の色を基に4つの亜種群にまとめられ、黒っぽい夏羽をもつニホンライチョウはアリューシャン列島の西部Attu島のL. m. evermanni (Agattu島に再導入) や地理的に最も近い千島列島北部のL. m. kurilensisとともに一つの亜種群を形成する。世界のライチョウはmtDNAの調節領域 (CR) の配列がよく調べられ、特にベーリング海周辺のライチョウは雄夏羽の色とmtDNAの系統がよく一致することが知られている (Holder et al. 2000)。
 CRのハプロタイプ分析から日本のライチョウはevermanniよりもベーリング海周辺の大陸集団(複数亜種を含む)により近く、CRドメイン1の676bp の進化速度をHolder et al. (2000)にならって14.2%/MYと仮定すると、日本と大陸の両集団の分岐は6.2万年前と推定された。また千島産のkurilensisは1剥製のみ調べられたが、日本の集団に最も近いハプロタイプを持ち、4.8万年前の分岐だった。ニホンライチョウは北方の集団から孤立して、5~6万年ほど経つと思われる。
 ニホンライチョウ内の集団構造はCRや20遺伝子座のマイクロサテライトDNA (STR)などによって分析された。南アルプスとそれ以外(頚城、北アルプス、乗鞍、御嶽)の大きく2集団に分けられ、その分岐年代はCR の配列から9千年前と推定された。頚城から御嶽までの集団は、頚城がさらに分かれるか、あるいは頚城から御嶽までクラインを形成するか微妙であった。遺伝的多様性(STRの平均ヘテロ接合度)は頚城と御嶽が0.45で、南アルプスが0.46、北アルプスと乗鞍が0.52だった。頚城、御嶽、南アルプスの各集団は、ボトルネックを歴史的に経験したAttu島集団と並んで、世界で最も遺伝的多様性が低い集団であることがわかった。


日本生態学会