| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S10-3  (Presentation in Symposium)

シカの採食に対する植生のレジリエンス~シードバンクの役割と衰退~
Resilience of vegetation to deer grazing: insights from seedbank evaluations

*篠田悠心(東京農工大学), 内田圭(東京大学), 小山明日香(森林総研), 赤坂宗光(東京農工大学)
*Yushin SHINODA(TUAT), Kei UCHIDA(Tokyo Univ.), Asuka KOYAMA(FFPIR), Munemitsu AKASAKA(TUAT)

シードバンクは、植物の個体群や群集の撹乱に対するレジリエンスを担保する重要な役割を担っている。そのため、シカの採食が植物に与える影響が不可逆なものかどうかを判断する上で、シードバンクの変化は無視できない。本研究では、シードバンクへの種子の加入,シードバンク内での種子の存続,シードバンクからの発芽の3プロセスに着目して、シカの採食が植物個体群や植物群集のレジリエンスに与える影響を検討した。その結果,シカの採食は、シカの採食に対して脆弱な種のシードバンクに加入する種子の質を変化させていることが明らかになった。シカの採食がある場合では対象とした2種において、種子の長さが短く、重さが軽く、発芽率の高い、永続的なシードバンクの構成には不向きな種子が生産されていた。さらに,シカの採食の継続は、森林において地上部植生の種の出現確率を低下させなかったものの、シードバンク内の種子の種の出現確率を減少させた。これは、地上部植生ではシカの採食傾度による種の入れ替わりを起こしながら、種の出現確率を保っていた一方、シードバンク内では種の入れ替わりを起こさず単調減少したことが原因だと考えられた。また,シカによる採食がない場所では森林更新や下層植生の出現種数に正の効果をもたらす林冠ギャップの形成が,シカによる採食が顕著である場所においては、シードバンク内の種子の発芽を介して減少を促すことも明らかにした。以上の結果は、地上部の植物個体群や群集において、種子の生産が続いている、出現種数が変化していないなど、シカの採食による変化が表れていなくても、すでにシードバンクの減少や劣化が引き起こされている可能性を示唆している。シードバンクに着目したシカと植物の関係の理解は、基礎学術的な課題、および応用的な課題の双方の解決をより進めることに直結するだろう。


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