| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S10-6  (Presentation in Symposium)

集水域スケールの植生保護柵設置8年後の植生および土壌物理性の変化
Changes in vegetation and soil characterstics after 8 years catchment scale deer exclusion

*大平充(東京農工大学), 五味高志(東京農工大学), 平岡真合乃(土木研究所), 内山佳美(神奈川県自然環保セ)
*Misturu OOHIRA(TUAT), Takashi GOMI(TUAT), Marino HIRAOKA(PWRI), Yoshimi UCHIYAMA(KNCC)

 草食獣の過度な増加による林床植生の衰退は、土壌侵食の増加を通じて浸透能の低下や土砂流出の増加といった水土保全機能の低下を招く。調査地である神奈川県の丹沢山地では、1960年代からニホンジカ密度が増加し、近年では管理捕獲によりその密度は低下してきているものの、植生の回復は緩やかであり、その機能の回復も制限されていることが予想される。
 本研究ではこのような過採食後の、集水域スケールで設置された植生保護柵(防鹿柵)の内外での植生と土壌物理性の変化を比較し、その回復性を検討した。調査は、柵設置前の2010年と設置8年後の2018年に、各集水域内で植生被覆率に応じて1m×1mのプロットを設置し、その植物種および植物バイオマス量、土壌状態を把握した。
 その結果、2018年には柵内外ともに種数が増加したが、柵内では木本種、柵外では草本種が主に増加した。しかし、柵内外および柵設置前後でプロットの平均土柱高(中央値1.7-2.1 cm)や土壌乾燥密度(0.4-0.7 g/cm3)に有意な差はなかった。
土壌乾燥密度と植物バイオマス量との関連を検討すると地下部の根系量と負の相関があり、また根系量は木本種数と正の相関があった。柵内では木本種数が5種以上のプロットで2.5 mg/cm3以上の根系量となり、同時に土壌乾燥密度が0.5 g/cm3前後の良好な状態であった。
 このような木本種と根系量の増加に伴う良好な土壌状態は、主に植生被覆が40%以下のプロットで観察され、被覆率がより高いプロットでは草本種が多くを占め、土壌乾燥密度は大きなばらつきを示した。また斜面下部と上部で比較すると、斜面下部では土壌乾燥密度は植生にかかわらず高く、斜面上部でのみ木本種数および根系量が多く土壌乾燥密度が低かった。
 これらから、ニホンジカ密度の過増加後においては、採食圧を除去しても、不嗜好性種を含む草本種の被覆の拡大や、斜面下部での侵食量の増大といった制約を受け、植生-土壌物理性の回復は制限されうることが示唆された。


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