| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S11-5  (Presentation in Symposium)

生物群集の多様性と動態を説明する"相互作用容量仮説"
Interaction capacity underpins community diversity and dynamics

*潮雅之(京都大学)
*Masayuki USHIO(Kyoto University)

野外において生態群集がどのように形成され、その多様性と動態がどのように決定されているかを理解することは生態学の大きな目的の一つである。近年になって、生態群集の形成機構に関する無数の仮説がVellendにより系統だってまとめられ、4つの高次プロセス、すなわち「種分化」「選択」「分散」「浮動」が重要であるとされた。この中でも「選択」は生態群集形成の多くの過程で働いており、故に生態群集の理論形成において重要な役割を担ってきた。生物間相互作用は選択の重要なプロセスの一つであり、従って、生態群集形成における生物間相互作用の役割の理解は生態群集の多様性と動態の決定機構の理解において鍵となると考えられる。

本研究では、生物間相互作用と生態群集の多様性と動態の関係を理解するため、まずDNA検出に基づく野外群集の網羅的かつ高頻度なモニタリングを行い大規模な時系列データを得た。時系列データは5つの野外実験水田から得られ、122日間・1日1回のモニタリングで合計1000種を超える生物を検出した。そのデータを非線形時系列解析により解析し、野外群集の複雑かつ大規模な相互作用ネットワークを再構築し、生物間相互作用と群集の多様性・動態を解析する機会を得た。解析の結果、多様性が高い群集ではリンクあたりの相互作用強度が弱く、かつ動態が安定化する傾向が見られた。このパターンは生物種には保持できる相互作用の量(すなわち相互作用の数×強さ)に上限がある(=相互作用容量)と考えることで理解できる。すなわち、多様性が高く相互作用の数が多い条件下では一定の相互作用容量を多くの相互作用に分配するためにリンクあたりの相互作用強度が弱くなり、そのため群集動態も安定化する。さらに、発表ではこの「相互作用容量」という概念を用いることで様々な生態群集のパターンを統一的かつシンプルに理解できる可能性を示す。


日本生態学会