| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S13-3  (Presentation in Symposium)

温暖化に対する土壌微生物群集の応答と微生物呼吸量への影響
Response of soil microbiota to global warming and its effect on heterotrophic respiration

*近藤俊明(国際農研), 寺本宗正(国立環境研究所), 高木健太郎(北海道大学), 小嵐淳(原子力機構), 安藤麻里子(原子力機構), 高木正博(宮崎大学), 石田祐宣(弘前大学), 梁乃申(国立環境研究所)
*Toshiaki KONDO(JIRCAS), Munemasa TERAMOTO(NIES), Kentaro TAKAGI(Hokkaido Univ.), Jun KOARASHI(JAEA), Mariko ATARASHI-ANDOH(JAEA), Masahiro TAKAGI(Miyazaki Univ.), Sachinobu ISHIDA(Hirosaki Univ.), Naishen LIANG(NIES)

土壌中の有機炭素は土壌微生物による分解過程を経てCO2として大気中に放出される。この現象は微生物呼吸と呼ばれ、人間活動に由来するCO2放出量の約7-10倍に相当する。温暖化に伴う微生物呼吸量の変動は地球規模の炭素収支に多大な影響を及ぼすため、その評価は気候変動の将来予測において重要であるものの、僅かな土壌中に数億個体が存在する土壌微生物の動態を、従来の培養法を用いて把握することは極めて困難であった。
本研究では、温暖化操作実験のもと、微生物呼吸が長期に渡って測定されている国内の5つの森林(宮崎、広島、つくば、白神、天塩)において、遺伝解析手法を用いて、①土壌微生物量、②土壌微生物の種組成、およびその季節変化など、土壌微生物動態を把握することで、温暖化に対して土壌微生物相がどのような応答を示し、結果として微生物呼吸がどう変動するのかといった、一連の微生物呼吸プロセスの解明を行った。
その結果、①日本の森林生態系では、温暖化環境下においても微生物呼吸量の減少をもたらすと考えられる土壌微生物種の消失や土壌微生物量の減少が生じないこと、②土壌微生物種数や土壌微生物量に変化はないものの、二次的な森林においては温暖化に応じて多様な有機物の分解に関わる放線菌類の出現頻度が増加すること、また、③こうした傾向は季節に関係なく、年間を通して観測できること、などが明らかとなった。こうした現象は、日本の森林土壌が有する2つの特徴(気温の大きな日・年較差と豊富な土壌有機物量)と、そこに生息する土壌微生物の高い温度馴化に起因するものと考えられた。つまり、気温の日較差や年較差が大きな日本の森林土壌に生息する土壌微生物は温暖化の影響を受けにくく、温暖化環境下においても豊富に蓄積された土壌有機物の分解を活発に行うことで、結果的に微生物呼吸量の増加をもたらすと考えられた。


日本生態学会