| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S16-1  (Presentation in Symposium)

スラウェシ島・メダカ科固有種群における性的二型多様化の分子基盤
The molecular basis of diversified sexual dimorphism in Adrianichthyidae endemic to Sulawesi

*安齋賢(東北大・院・生命)
*Satoshi ANSAI(Tohoku Univ.)

性的二型は生物において広く観察されるが、その表現型は著しく多様であり、時に近縁種間であっても急速に多様化する。しかしながら、野外生物が示す多様な性的二型の分子基盤はほとんど解明されておらず、その発生・生理機構や適応度に与える影響を実験的に示した例はほとんどない。インドネシア・スラウェシ島に生息する20種のメダカ科固有種群は、体色・形態における性的二型が種間で急速に多様化しているとともに、遺伝子改変技術の実験室における適用も可能であることから、その多様化機構を統合的に解析するための優れた実験モデルである。本研究ではその第一歩として、メダカ科におけるその中の1種であるウォウォールメダカ (Oryzias woworae) の雄が胸鰭において発現する赤色婚姻色に着目し、その原因遺伝子の同定と機能解析を試みた。まず、近縁種セレベスメダカ (O. celebensis) との交配家系を用いたQTL解析から、常染色体上の1遺伝子座が赤色婚姻色の発現に強く関与することが明らかとなった。また、胸鰭におけるトランスクリプトームの雌雄間・種間での比較から、QTL上に存在する有力な候補遺伝子csf1を同定した。CRISPR/Casシステムにより作出した機能欠損個体では全身の赤色が消失することから、本遺伝子が赤色の発現に必要であることが示された。また、csf1欠損個体を用いた配偶行動実験の結果、雄の赤色婚姻色の有無が雌の配偶者選好性に影響することが明らかとなった。本講演では、これらの結果の詳細を紹介することで、分子から生態までを統合的に解析するモデルとしてのメダカ科魚類の可能性について議論していきたい。


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