| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S16-5  (Presentation in Symposium)

メダカとその近縁種をモデルとした塩分耐性機構:鰓塩類細胞分化に着目して
Salinity tolerance in medaka and its relatives: focus on the differentiation mechanisms of ionocytes in gill

*宮西弘(宮崎大・農)
*Hiroshi MIYANISHI(Fac. Agricult., Univ. Miyazaki)

 魚類の棲む水圏環境は、淡水や海水といった塩分の異なる環境であり、塩分耐性は環境適応における重要な機構である。メダカ属は、塩分耐性の多様性をもつ重要なモデル生物として注目されている。これまでの知見から、海水などの高塩分を経験できる生息域に棲む種は塩分耐性が高い。一方で、陸封されるなど淡水環境にしか生息しない種は塩分耐性を失う種が存在し、塩分環境と塩分耐性には関係が見られる。基本的に淡水生活であるOryzias latipesは、100%海水へ直接移すと死に至るが、希釈海水を経れば100%海水への適応が可能な中間的表現型を有する。そこで、O. latipesを一度海水に経験させ、再び淡水に馴致した「海水経験メダカ」における塩分耐性について調べた。海水経験メダカは、100%海水へ直接しても生存可能であり、この塩分耐性の向上は、塩分を排出する鰓塩類細胞の分化の促進によるものが分かった。つまり、1世代の中でも、海水という高塩分環境を経験するとエピジェネティックに塩分耐性が向上する。エピジェネティックな塩分耐性に関わる変化が、次世代に受け継がれるかは、種としての塩分耐性の向上を知る上でも重要であり、今後の課題である。
 塩分耐性機構の中で、なぜ魚が淡水または海水しか生きられない、そしてその両方で生きられるといった塩分耐性の違いを生み出す鍵となる遺伝子の同定は長年の課題である。そこで、塩分の取り込みおよび排出を担う鰓塩類細胞に着目して、塩類細胞の分化機構の解明に取り組んでいる。これまでに、O. latipesにおいて、転写因子forkhead box I (foxi) 1が、淡水型および海水型が存在する塩類細胞の全てのタイプの分化誘導因子であることを明らかにした。本発表でも、これまでの知見を紹介する。Foxi1を起点に、特に海水型塩類細胞の特異的分化を促す因子が同定できれば、塩分耐性の評価マーカーとなり、魚類の進化を塩分耐性という視点から考えられると期待できる。


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