| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S20-2  (Presentation in Symposium)

コムギ近縁野生種における集団構造と出穂期制御の関係、及びその育種利用
Population structure and heading time variation in wild wheat relatives and their breeding use

*宅見薫雄(神戸大・院・農)
*Shigeo TAKUMI(Kobe Univ.)

栽培種であるパンコムギはA, B, Dの3つのゲノムを有する異質6倍体で、ABゲノムを持つ栽培二粒系コムギに近縁2倍体野生種のタルホコムギが交雑して成立した。この異質倍数性進化の過程は再現可能で、人為的交雑によって作られたパンコムギは合成パンコムギと呼ばれる。コムギゲノムは巨大であるためにリシークエンスによる全ゲノムでの遺伝子型の取得が困難で、GBSやRNA-seq等のNGSによりゲノム網羅的な多型情報が取得されている。また、参照ゲノム配列が未解読の近縁種も多い。パンコムギにDゲノムを提供したタルホコムギ系統はカスピ海南岸に分布する一部の系統に限られるため、ユーラシアに広く分布するタルホコムギの遺伝的多様性はパンコムギのDゲノム改良のための重要な遺伝資源とされる。NGSを使って明らかにされたタルホコムギの集団構造は亜種の分類と必ずしも一致せず、大きく2つあるlineageのうちの一方だけが分布の中心であるトランスコーカサスから東の中国まで分布域を広げた。この東進したタルホコムギのlineageは出穂が早く系統群である。東の分布域でさらに日長感応性や春化要求性を欠いた系統が分化し、さらに早生性が進んだと推定される。出穂性がこのような地理的クラインを示すコムギ近縁野生種は他にもあり、多くがその種の集団構造と密接に関連している。これらの変異に関わった遺伝子はパンコムギでも同様の形質に関わるとされている遺伝子が多いことも明らかになっている。さらに、東進したタルホコムギの持つ早生性は合成パンコムギを介して実際の日本のパンコムギ品種の早生化にも応用できることが示された。NGSの利用により近縁種の参照ゲノム情報を用いれば、たとえ参照ゲノム配列が未解読の種であっても、その集団構造を詳細に明らかにし、様々な形質と遺伝子との関連を推定することが徐々に可能になってきている。


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