| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S25-4  (Presentation in Symposium)

多様な農生態系の基盤:作付体系・生物記録の掘り起しからの地域農業の可能性
Bases of diverse agroecosystems

*日鷹一雅(愛媛大学・院・農学)
*Kazumasa HIDAKA(Ehime Univ. Agronomy)

ベースラインという概念は各分野や実社会で用いられる。本題の里地里山の保全には、農業の持続性のベースラインに関する農学上の議論も強く関連しており、農林水産業やフードシステム、資源管理のあり方などは無視できない。本学会では、自然再生指針の構想過程で議論が行われた経緯もある。演者は地域農業の現場に身を置いて、里地里山の生物多様性や農生態系の保全を対象に、保全ベースラインを提案してきた(たとえば、日鷹ら 2008)。農生態系の構造や機能の解明を通して、時・空間的な変遷を顧み、持続的発展に向けてデザインするには、多様・複雑で重層的に見え隠れする農生態系の構造や機能をうまく抽出して未来に繋ぐ必要があるが、その営みは実際容易ではなく、気が付くと様々な「外から攪乱」も加わり保全継承すべき財産を失っている場合も多い。農生態系は日々の私たちの糧を得る不可欠な生きるための営為の源であり、経済活動を伴うものである。地域農業の現場は今生きている系なので、自然保護区のような遺跡的な生態系に比べて在来知や伝統あるいは生物多様性を保護・堅持しようとすると、よく営農の現実とのギャップに直面しがちである。例えば世界農業遺産の現場はそうである。私たちは、常に「何を守るべきで、そのためにどう行動すべきか?」そのベースライン探究を常に怠らずに、重層的な農林水産業や生業の歴史をあの手この手で、丁寧に記録保存しながらも、生きている系につながるフィジカルな所作、いわゆる野良仕事も継承できれば、単なる絵に描いた餅を未来に残さずに、貴重な農生態系を継承できるであろう。今回は作付・栽培に係わる農多様性と農業生物多様性の間の因果関係の解明(日鷹 2017)を事例に、「何を継承し発展させるのがよいか?」について論ずる。記載・解析や標本・資料の重要性の傍らで、地域農業における時・空間的な歴史文化性も重層的に捉えながら、ヒトのフィジカルな認知・行動を基盤として景観をみていく必要があるだろう。


日本生態学会