| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W11-3  (Workshop)

父性解析から探るコオイムシの繁殖戦略 −「やり逃げ」オスはいるか?−
Understanding the reproductive strategy of a giant water bug using the paternity analysis

*鈴木智也, 東城幸治(信州大学)
*Tomoya SUZUKI, Koji TOJO(Shinshu Univ.)

コオイムシ類は、交尾後にメスがオスの背に産卵し、交尾・産卵が繰り返されてオスは大きな卵塊を背負うこととなる。幼虫が孵化するまで、オスは卵の発生段階に応じた世話をする。このような父育行動により卵の孵化率は高まるが、卵塊を背負いながらの世話に伴うコストのみならず、捕食圧が高まるリスクもある。また、日本列島に棲息するオオコオイムシではオスが背負う卵の3割が他オスの精子により授精した卵であることが知られている。これは、コオイムシ類の繁殖様式が乱婚型であるため、メスの受精嚢内には複数オスの精子が混在していることが要因と考えられる。このような状況であれば、メスと交尾して精子を授け、自らは卵を背負わない「やり逃げ」オスが存在する可能性が考えられるが、その検証はこれまでなされていない。そこで本研究では、個体識別した20ペアのコオイムシを約一ヶ月間、自由交配させる集団飼育を行い、その後、実験に用いた全個体と孵化した幼虫について、17座のSSRマーカーを用いた親子関係の推定を実施した。その結果、コオイムシにおいても父性が確実ではないことが明らかとなった。さらに、卵塊を背負わずとも自身の子を残してした「やり逃げ」オスの存在が示唆された。この結果は、「オスの種内托卵」行動という極めて珍しい現象を検出したものである。


日本生態学会