| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


自由集会 W22-1  (Workshop)

かたちのセマンティクス ―「モネのスイレン」の花形態の研究 ―
Semantics for biological forms: A morphological study on Monet's water lilies

*切江志龍(東大・農学生命), 岩田洋佳(東大・農学生命), 岩崎秀雄(早大・先進理工), Christophe PRADAL(CIRAD, INRIA), Pascal NEVEU(INRA), 野下浩司(九大・理学)
*Shiryu KIRIE(Univ. Tokyo), Hiroyoshi IWATA(Univ. Tokyo), Hideo IWASAKI(Waseda Univ.), Christophe PRADAL(CIRAD, INRIA), Pascal NEVEU(INRA), Koji NOSHITA(Kyushu Univ.)

 園芸において花の形態は色彩と並んで重要な選抜対象である.このような鑑賞を目的とした選抜は「美的選抜」とよばれ植物器官の形態的多様化に貢献してきた.登壇者は19世紀にフランスで興隆したスイレンNymphaeaの育種の歴史における花形態の変遷過程を,花の三次元形態に基づいて理解しようとしている.対象としているスイレンはモネの絵画『睡蓮』にも描かれている品種を含んでおり,生物学と美術史との学際研究的な意義がある.
 しかしながら花は立体的に様々な器官が組み合わさった構造をもち,その定量評価は従来の幾何学的形態測定だけでは十分ではない.登壇者は①理論形態モデルによるアプローチ,②表現型セマンティクスの導入の二つの方法論の開発を試みている.理論形態モデルは花形態をいくつかのパラメタを介して表現したものであり,花形態同士の関係を空間的に把握することを可能にすると同時に,三次元形態そのものを測定せずともパラメタの推定から間接的に三次元形態を扱うことが可能となる.また「セマンティクス」とは「意味論」のことであり,ここでは形式的な語彙体系に基づいてモデルの操作を行うことを指す.これらのアプローチによって複雑な三次元構造を「生物学的な意味をとどめながら」解析することが本研究における一つの大きな目標である.また,園芸においてはしばしば「星型」「椀型」のようなカテゴリカルな形態の記述様式がみられる.登壇者はこうした人の感性に基づいて定義された形態的特徴の定量的説明を行うことも試みている.今回の発表ではこれまでに構築してきた理論形態モデルの概要と,そこに付加されるセマンティクスについての予備的な結果および展望を説明する.


日本生態学会