| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


第13回 日本生態学会大島賞/The 13th Oshima Award

ボルネオ島の熱帯降雨林樹木群集に対する森林伐採の影響
Impacts of selective logging on tropical tree community in Borneo

今井 伸夫(東京農業大学 森林総合科学科)
Nobuo Imai(Department of Forest Science, Tokyo University of Agriculture)

 熱帯林の多くは、非常に高いバイオマスと生物多様性を誇る一方、今なお急速に減少・劣化が進む「ホットスポット」である。熱帯林劣化の主因の一つは、択伐による木材生産である。熱帯林を持続的に管理していくためには、熱帯林が有する生態系サービス(生物多様性や炭素貯留量)に様々な利害関係者が関心を寄せ、生態系サービスを維持しつつ木材生産を行う環境配慮型の森林管理を支援するような仕組みが必要である。しかし私が研究を始めた2006年当時、木材生産の現場において、生物多様性保全や炭素貯留効果を定量的に広域に評価する方法は確立されていなかった。そのため、熱帯林における環境配慮型管理の評価自体が定まっていなかった。また世界的に見て、伐採によって荒廃した熱帯二次林の生態の多くは未解明であった。
 そこで、マレーシア領北ボルネオ(サバ州)の広大な木材生産林に100個以上の試験区を設置し、伐採強度と樹木群集組成・構造の関係を調べた。その後インドネシア東カリマンタン州にも試験区を広げた。14年間の研究で、1)伐採強度に応じて、樹種多様性はあまり変化しないが、群集組成は線的に変化する、2)環境配慮型の森林管理を行うと、樹木群集組成の原生性(原生林との組成距離)は維持され、3)栄養塩循環も維持されることにより二次遷移が早く進む、ことが分かった。このように一連の研究によって、熱帯二次林の樹木群集の概要と、環境配慮型管理の持続可能性を定量的に明らかにすることができた。また、4)生物多様性や炭素貯留量を、空間的に異質な熱帯二次林において効率的に広域サンプリングする手法も確立した。これはその後共同研究者らによる衛星画像分析に応用され、生態系サービスの広域地図化手法の開発へとつながった。
 また、熱帯林の物質循環に関する基礎研究も行ってきた。熱帯では土壌リンが不足するため、リン欠乏への樹木の適応に特に注目してきた。まず、リン・窒素・炭素の生態系レベルの空間分布を土壌-植生まで含めて調べ、元素間での空間分布の違いを指摘した。2011年からは世界に先駆けて、熱帯の原生林と二次林において大規模な窒素・リン施肥実験を開始し、24反復区への施肥を毎年行ってきた。施肥に対する成長速度、細根・土壌微生物のバイオマスや分解酵素活性の応答を調べ、栄養欠乏に対する樹木と土壌微生物の適応を明らかにしつつある。


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