| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


第8回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 8th Suzuki Award

オッカムの剃刀の向こう側
Beyond Occam's Razor

梁 政寛(ベルリン自由大学生物学専攻;ベルリン・ブランデンブルグ生物多様性先端研究所)
Masahiro Ryo(Institute of Biology, Freie Universität Berlin; Berlin-Brandenburg Institute of Advanced Biodiversity Research)

Lotka-Volterraの方程式が複数種の共存を説明したり、Hubbellの統一中立理論が種多様性を説明したり、対照実験でキレイな有意差が出たり…シンプルな仮定で複雑な現象を説明することは誰が何と言おうとカッコいいし、美しいのだ。なんとなく、本質的な原理原則に触れて、分かった気がするではないか。何かを説明するのに必要以上に多くの仮定を置くべきではないという考え方は生態学に限らず、現代科学全般の中心的考え方だ。これをオッカムの剃刀という。うーん、シンプル・イズ・ベスト。

ただ、僕が気になるのは、どこまでが必要で、どこからが不必要な仮定なのか、ということだ。生態系や群集の動態を説明するのは極めて困難だ。多数の種間相互作用や無数の環境要因が複雑に入り組みあっているし、スケールによっても動態の見方は違う。あらゆるものが必要な仮定に思えてくる…でも、それは良くない。じゃあ、必要な仮定はどのくらい複雑であるべきなんだろう?オッカムの剃刀を逆に見るなら、何かを説明するのに必要以上に仮定を「減らす」べきではないのでは?これは無意味な禅問答か?—否。生物多様性の急激な減少に歯止めが効かないなか、最適な複雑化がなされた精度の良い予測モデルを作り、その予測モデルからはじき出される適切な対策を講じるためには絶対不可欠な問いなのだ。理解と予測をつなげなくてはならない。

理論を予測につなげて保全にいかすためには、適度な複雑化は避けては通れないのだ。Higher Order Interaction (HOI)に代表されるようなEcological Surprise と呼ばれる現象らを、サプライズでなくしてやる必要がある。そんなスタンスで、僕がこれまでに培ってきた生態学へのアプローチ(時間動態や機械学習)を紹介したい。工学畑出身の僕の攻め方は、きっと新鮮で、きっとどこかで役に立つと思う。


日本生態学会