| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-08  (Oral presentation)

標高傾度に伴うクロサンショウウオの卵嚢の色彩変異
Spatial variation in egg sac transparency of Japanese Black Salamander according to elevation  gradient

*江口健斗, 上野裕介(石川県立大学)
*Kento EGUCHI, Yusuke UENO(Ishikawa Prefectural Univ.)

クロサンショウウオ Hynobius nigresecens は北陸地方から東北地方にかけての本州と佐渡島に生息する日本固有の止水性サンショウウオである.繁殖期は1月下旬から5月上旬であり,卵嚢はアケビ型である.一方で,クロサンショウウオでは国内に生息する他の小型サンショウウオ類とは異なり, 3タイプの卵嚢色(白色型,中間型,透明型)の変異が知られているものの,その要因はよくわかっていない.このため,2020年4月21日から5月18日にかけて,遺伝的な差異が小さいと考えられる同一の白山山系内で調査を行い,標高が異なる10か所の産卵池において卵嚢色の空間変異を調べた(標高220,490,540,740,830,840,1060,1160m).
その結果,標高740m未満では発見された卵嚢の全てが白色型であったのに対し,標高740m以上では,標高が高くなるにつれて白色型の割合が減少する一方で中間型と透明型の割合が上昇することが確認できた.また地理情報システム(GIS)から得た地形や気象情報を基に,卵嚢色との関係についてRDA(Redundancy Analysis,冗長性解析)を行った結果,標高だけでなく,年間平均気温,最大積雪深も中間型や透明型の割合の上昇と強い相関があることが示唆された.一方で,そもそもなぜ,クロサンショウウオのみに卵嚢色の色彩変異が見られ,かつその割合が標高に伴って一様に変化するのかは不明のままである。対捕食者戦略や低標高・高水温への適応可能性など,今後は進化生態学的側面からの研究が必要である。


日本生態学会