| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-01  (Oral presentation)

大イワナは川で何を食べているか:礼文島から佐渡島までの日本海側河川における分析
Dietary variation of giant white-spotted charr within rivers along the coastline from Rebun Island to Sado Island

*後藤暁彦(東京大学), 黒木真理(東京大学), 森田健太郎(北海道大学)
*Akihiko GOTO(The University of Tokyo), Mari KUROKI(The University of Tokyo), Kentaro MORITA(Hokkaido University)

遡河回遊魚であるサケ科魚類は,海洋で積極的に摂餌・成長する一方,遡上直後の時期を除いて河川内ではほとんど摂餌をしないことが多くの種で知られている。本州では残留型となるイワナも,東北以北においては降海型が出現し,越冬や産卵のために遡上と降海を繰り返す。イワナの食性に関する研究は残留型や稚魚・幼魚を中心に行われているが,降海した大型個体の河川食性に注目したものは少なく,国内では分布の中心である北海道の個体群で研究されているのみである。本研究では,降海するイワナの南限にあたる新潟の個体群を含めて河川遡上中の大型のイワナの河川における食性を調査し,地域間の変異や残留型と比較した。
2019年8月,2020年9月に日本海に流入する北海道から新潟の16河川において電気ショッカーを用いてイワナを捕獲し,尾叉長と体重を計測後,耳石を摘出した。目視により胃内容物の同定,計数を行い,河川ごとに内容組成と空胃率,肥満度を算出した。耳石は微量元素分析によりSr/Ca比から降海履歴を推定した。 北海道の個体群の多くが80%以上の高い空胃率を示したが,津軽海峡以南では摂餌している個体が多く,最も南の新潟の個体群では,全ての個体から胃内容物が確認された。胃内容物の個体数割合は陸生生物が多くを占め,同時期の残留型と近い傾向が認められた。また,肥満度は分布緯度による変異がみられなかった。本研究により,これまで少数例しか報告されていなかった降海型の河川摂餌が確認され,摂餌率に緯度クラインが存在することが明らかとなった。高緯度では河川でほとんど摂餌しないにもかかわらず,餌を食べている低緯度域と同程度の肥満度を維持していることから,河川摂餌の有無を決める要因について海洋生態も含めたさらなる研究が必要である。


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