| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-03  (Oral presentation)

アゴハゼの人工飼料に対する摂食行動:経験及び他個体の影響
Foraging of the goby Chaenogobius annularis in response to artificial diets: effect of experience and conspecific individuals

*和田哲(北海道大学)
*Satoshi WADA(Hokkaido University)

他個体のふるまいによって間接的に得られる、その他個体以外の情報を社会情報という。社会情報は、自らの経験によって直接得られる独自情報に比べて情報収集の効率がよい。とくに集団を形成する動物が社会情報を利用することは、無脊椎動物を含む様々な分類群で知られている。一方、近年では単独で生活する動物も社会情報を利用することが徐々に判明しつつある。
 アゴハゼは全国の岩礁潮間帯に広く分布する小型魚類である。本種では稚魚が比較的高密度になることはあるものの、とくに群れなどを形成せずに単独生活をおこなっている。本研究では、アゴハゼが未知の人工飼料(テトラミン)に対して摂餌を開始する時間に及ぼす経験及び他個体の影響を検証した。
 実験では、野外で採集したアゴハゼに人工飼料を与えて1日飼育した経験群と、その翌日(夜間)に採集し、実験開始まで無給餌だった未経験群を設定した。そして、未経験群を採集した翌日の日中に、(1)各群の個体を1個体のみ小型水槽に入れた条件と、(2)各群の個体を2個体、あるいは1個体ずつの2個体(混在条件)を同じ小型水槽に入れた条件で、水中での摂餌開始時間と水面での摂餌開始時間を測定した。実験後に全長を測定し、全個体を採集地に返した。
 (1)では経験群のほうが水面摂餌開始時間が早かったが、水中摂餌開始時間には有意差は見られなかった。(2)では混在条件の未経験群は未経験条件よりも水面摂餌開始時間が早かった。全長は全般に影響を及ぼしていなかった。これらの結果はアゴハゼが経験によって人工飼料に対する反応を変えること及び経験個体による社会情報が未経験個体の摂餌開始時間を早めることを示している。


日本生態学会