| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) C03-07  (Oral presentation)

八王子市におけるゲンジボタルの生息適地の推定
Predicting habitat quality for Luciola cruciata in Hachioji City

*浮田悠, 大澤剛士(東京都立大学)
*Haruka UKITA, Takeshi OSAWA(Tokyo Metropolitan University)

 生物の意図的導入とは、目的を持って種をその自然分布域からの分散能力域外へ移動させることを言う。その中でも、再導入は、ある生物が消滅した本来の生息域の範囲内において、対象種の生存可能個体群を回復させることを目的としたものである。
ゲンジボタル(Luciola cruciate)は過去から現在にわたり、人間とのかかわりが非常に深い存在であり、ホタルを飼育して放流するという行為は古くから全国各地で盛んに行われてきた。しかし、放流環境がホタルの生息に不適である場合も多く、放流個体が短期間で死滅し、定着できないというケースも非常に多い。つまり適切な再導入を実現するための第一歩として、適切な放流場所の選定が非常に重要である。
 また、土地被覆の変化は、生物多様性の減少を引き起こす重要な駆動要因の一つと考えられており、現在はもちろん、過去の土地被覆も現在のホタルの生息に影響を与えている可能性がある。その場合、現在の土地被覆のみから好適な環境を判断して放流を行うことで、放流個体群が定着できない無意味な放流につながってしまう可能性がある。
 そこで本研究では、東京都八王子市を対象に、土地被覆、特に過去の土地被覆履歴に注目し、ホタルの生息可能性に影響を及ぼす周辺環境について、ゲンジボタルの出現調査と土地被覆調査により検討した。土地被覆図作成にあたり、GIS上で航空写真を判読し、その後、現在のゲンジボタルの生息に影響する土地被覆および年代を検討するため、赤池情報量基準(AIC)に基づき解析を行った。その結果、ゲンジボタルの生息に生息地周辺の土地被覆、それも現在の土地被覆ではなく、過去の土地被覆が影響する可能性が示された。つまり、適切な導入場所を検討するためには、微環境および現在の土地被覆だけでなく、過去の土地被覆を検討する必要があると考えられる。


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