| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-02  (Oral presentation)

アオモンイトトンボにおけるオス擬態の分子機構
Molecular mechanism of male-mimicry in Ischnura senegalensis

*高橋迪彦(東北大学), 奥出絃太(産業技術総合研究所, 東京大学), 二橋亮(産業技術総合研究所), 高橋佑磨(千葉大学), 河田雅圭(東北大学)
*Michihiko TAKAHASHI(Tohoku Univ.), Genta OKUDE(AIST, Univ. of Tokyo), Ryo FUTAHASHI(AIST), Yuma TAKAHASHI(Chiba Univ.), Masakado KAWATA(Tohoku Univ.)

トンボ目昆虫では、一部の種においてオス擬態を伴うメス特異的な色彩多型が出現し、オスに体色の似る雌(オス型)と、オスとは体色の異なる雌(メス型)が存在している。トンボ目のメス多型はオスの性的ハラスメントによって負の頻度依存的に維持されており、トンボ目の広い分類群で独立に複数回獲得されている。アオモンイトトンボでは掛け合わせの実験から常染色体上の1遺伝子座の2対立遺伝子によって制御されていることがわかっているが、どのような遺伝子であるかは不明であった。本研究では、本種における雌特異的な色彩多型の遺伝的基盤を明らかにすることを目的とした。まず、着色中の羽化直後の個体で遺伝子発現解析を行なった。その結果、雌雄やメス多型間で発現量の異なる遺伝子として、昆虫の性差を生み出す転写因子であるdoublesexdsx)や、淡色メラニンの合成に関わるblackebonyが検出された。さらに、dsxではオスが短い転写産物(dsxS)を、メス型メスでは長い転写産物(dsxL)を発現する一方、オス型メスではdsxSとdsxLの両方を発現することが観察された。次に、RNAiによる本種におけるdsxの機能解析とそれに伴うblackebonyの発現変動を検証した。dsxLをノックダウンした場合は表現型に影響がなかったが、dsxSとdsxLの両方をノックダウンしたオスとオス型メスでは、胸部においてメス型メスの体色がみられた。続いて、体色が変化したオスとオス型メスのノックダウンをした領域とそれ以外の領域で、dsxblackebonyの発現量を定量RT-PCRによって測定した。dsx(SとLの共通領域)は発現抑制された一方、blackebonyの発現量はメス型メス同様に高くなることが確認された。以上の結果から、dsxSが淡色メラニン合成やクチクラ硬化に関与するblackebonyの発現を調節することで、オスやオス型メスの体色を制御していると考えられた。


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