| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-06  (Oral presentation)

トレードオフをともなう移住過程による種多様性:理論と検証 【B】
Species diversity under colonization process with a trade–off: Model and test 【B】

*Atsushi YAMAUCHI(Kyoto Univ.), Koichi ITO(Univ. of British Columbia), Shota SHIBASAKI(Univ. of Lausanne)

 群集構造を特徴づけるものの一つに種多様度分布(SAD: species abundance distribution)がある。その分布は特徴的なパターンを示す場合が多く、その背景にあるメカニズムは様々に議論されてきた。捕食-被食関係などの種間相互作用に基づく説明やニッチ分割に基づく説明、適応度の中立性に基づく説明など多様な議論がなされている。種間競争は一般に種の共存を抑制すると考えられがちだが、特定の競争構造の下では多種の共存を可能にすることがロッタリーモデルや移住モデル(colonization model)によって示されている。しかしながら、種間競争がSADなどの群集構造に与える影響は十分に議論されていない。
 本研究では移住モデルを発展させて、SAD の一つであるRAD(rank–abundance diagram)との関係を明らかにすることを目指す。コロニー形成のためのサイトをめぐる競争力と増殖能力の間に種間でトレードオフがあり、また、サイトをめぐる競争では競争力の高い種が低い種を必ず駆逐すると仮定する。このモデルの解析によると、生物種の競争力が連続的な場合には、任意のトレードオフの下で無数の種の共存が可能となる。一方、種数が有限で競争力が離散的な場合には、競争力が隣り合う種の頻度が大きく変動する特徴的なパターンが現れる傾向がある。その上で、その群集から描かれるRADは実際の群集に見られるRADの特徴をよく再現することが分かった。加えてモデルのRADは、ニッチが近接する種の頻度分布に関していくつかの定性的な特徴を伴っていた。その特徴を、実際の生物群集の複数のRADについて検証したところ、本モデルの予測と矛盾しないことが示された。
 この結果は、生物種間の競争が群集の生物多様性を規定する要因である可能性を、実証データと関連づけて示すものである。本解析は、主としてプロットの形状の一致に注目しがちであるSAD研究を、SADに情報を付加する「labeled SAD」の観点から発展させた新たな取り組みである。


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