| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-04  (Oral presentation)

茨城県桜川市におけるヤマザクラ・カスミザクラの生育状況と生態系サービスの評価
Vegetational characteristics of "Yamazakura (wild cherry)" forests in Sakuragawa, Ibaraki and local perceptions of their ecosystem services.

*勝田翔(筑波大学), 佐伯いく代(筑波大学), 庄山紀久子(防災科学技術研究所), 上條隆志(筑波大学)
*Kakeru KATSUDA(University of Tsukuba), Ikuyo SAEKI(University of Tsukuba), Kikuko SHOYAMA(NIED), Takashi KAMIJO(University of Tsukuba)

茨城県桜川市は,ヤマザクラとカスミザクラが群生する山桜の名所として知られている。本研究では,両種の生育・更新状況を明らかにし,地域の人々が認識している生態系サービスを評価することを目的とした。筑波山系を中心に12カ所の森林で毎木調査を行った結果,ヤマザクラとカスミザクラは2番目,3番目に胸高断面積合計が大きい主要樹種であった。幼木の多い更新良好地も3カ所確認され,一般化線形混合モデルによる解析の結果,萌芽率が高い森林で幼木が多く生育する傾向にあった。このことから,定期的な伐採を伴う里山管理は,山桜の景観を保全する上で重要であると推察された。次に,地元の集落居住者,桜まつり訪問者,地元の高校生の3グループに対してアンケート調査を実施し,山桜に対する保全意識の比較を行った。その結果,グループ間で山桜に対する理解や親しみの度合いが異なっており,世代や山桜に対する興味の違いによって保全活動への働きかけを工夫していくことが重要と考えられた。さらに,GISツールSolVES (Social Values for Ecosystem Services)を用いて,人々が山桜から感じる8つの生態系サービスの分布を推定したところ,3グループともに,「春の景観的価値」が山桜のもたらす最も重要な生態系サービスとして認識されており,その価値が強く感じられた場所は,高峯,磯部,雨引観音など山桜の名所周辺に集中していた。8種類の生態系サービスへの評価を比較したところ,山桜の価値が高いと推定された場所は,急斜面やコナラ二次林と重複する傾向にあった。こうした場所は,毎木調査によってヤマザクラやカスミザクラの更新が起こりやすいと考えられた環境の特徴と一致していた。以上の結果から,山桜がもたらす生態系サービスが強く認識されている地域において,春の景観に配慮した里山管理を行うことは,山桜の更新を促し,かつ地域の人々の保全活動に対する理解や協力も得られやすいと推測された。


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