| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-05  (Oral presentation)

南限域の「天然記念物」指定されたブナ林をどう守るか
Challenge to conserve the beech forest in southern limit, as a "national monument".

*佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)
*Daisuke SAKUMA(Osaka Mus. Nat. Hist.)

 国指定天然記念物「和泉葛城山ブナ林」は、大阪府南部の岸和田市と貝塚市にまたがり、和歌山県境と接する標高858mの和泉葛城山山頂部に広がる指定面積わずか8.12haの南限域のブナ林である。イヌシデやコナラなどと混交するこのブナ林を保全するための10カ年計画を策定するため、現状と課題を整理、検討した。
 このブナ林は山頂にある高龗(たかおかみ)神社、別名八大龍王社の社寺林であり、神社は現在も麓の5つの集落により管理される、地域とのつながりの深い社寺林である。一方、周辺にはかつて採草地(茅場)も広がり、年輪成長を見ても、ブナ林周辺もかつてはより疎林的な環境だったことが伺われる。社寺林といっても村落の利用との結びつきの中で検討する必要のある森林である。さらに現代の利用としてはハイキング、学校登山、周辺林道からのオフロード自転車などの入り込みなどの利用圧にもさらされる都市近郊林でもあり、天然記念物としての厳格な管理も必要になっている。
 近年、南限域で低標高の山頂のブナ林は温暖化によると思われる気温上昇により、直近の温量指数は90を超えている。植生調査により過去の調査結果と比較すると、大径木は維持され、林分としては100年程度の存続に大きな問題はない。一方、小径木の枯死、開花・結実の不良など、指定区域内だけでの長期的な維持は困難と考えられ、周辺のバッファーゾーンでの造林を含めた保全策を進めている。更にナラ枯れなどの課題も含め、天然記念物としての保全と、ブナ林としての更新、生態系保全の両立を図るための課題についての議論を報告する。


日本生態学会