| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-027  (Poster presentation)

本州中部の半自然草原における蛾類群集の環境指標としての有用性
Evaluation of using moth assemblages as environmental indicator in semi-natural grassland of middle Japan

*田島尚, 大窪久美子(信州大学農学部)
*Hisashi TAJIMA, Kumiko OKUBO(Shinshu Univ.)

本研究の目的は、霧ヶ峰高原の異なる植生環境における蛾類群集構造の解明および、半自然草原の本分類群の指標生物としての有用性の検討とした。蛾類群集の定量的調査は草原8地区と森林3地区の計11地区で実施され、合計593種14,759個体が確認された。長野県および環境省の絶滅危惧種は定性的調査を含み16種が確認され、多様な草原性種が記録された。各種の個体数を用いて食性分類を行った結果、草原と森林で生息する種の食性の違いや群落特性が示され、蛾類個体数が周囲の餌資源量を強く反映した。蛾類群集の多様性評価では草原と森林の要素を併せ持つ遷移の途中相の草原や二次林の地区で指数値が高かった。一方、継続的な刈り取り管理により維持されているスキー場の草原で低かった。調査区間の蛾類群集の類似度と距離、また植生の類似度には各々、有意な負および正の相関があった。これは蛾類群集の類似性が標高差による植生帯の変化に沿って類似することを示唆する。一方、調査区を草原と森林、草原を継続した管理の有無で区別したところ、同様の組み合わせと異なる組み合わせで類似度に有意な差があった。これは蛾類群集の類似度が草原と森林の大きな遷移段階の差と人為的攪乱の程度を群集の類似性から区別したものと推察された。同様の結果はTWINSPANでも得られ、調査区の分類で草原と森林、群落の優占種が区別され、管理手法とも一致した。種群分類では共通の食性や類似した生息環境の種が同じ種群に分類される傾向が強く、草原性希少種の全てがニッチ幅の狭い種で構成された草原性種群に分類された。また、本研究で遷移度やリター量と有意な相関がみられた分類群から、草原の遷移進行および森林の指標としてウチキシャチホコ亜科とアツバ亜科等、遷移度の低い草原の指標としてカドモンヨトウ族等が抽出された。本研究はJSPS科研費 JP19K06107の助成を受けたものである。


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