| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-028  (Poster presentation)

高山性鳥類に対する亜高山帯からの資源補償
Resource subsidies to alpine birds from subalpine forest

*飯島大智, 村上正志(千葉大・院・理)
*Daichi IIJIMA, Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

生態系は特性が異なる複数の環境から成りたち、隣接する環境は密接につながっており、環境をまたいで移動する資源が受け手の環境に生息する消費者の餌資源を補償することがある。高山生態系では一次生産が少なく、消費者は乏しい餌資源環境の下で生活する事を強いられており、実際に高山帯で繁殖する鳥類の巣内雛は頻繁に餓死する事が報告されている。一方、高山帯では、残雪上に落下した昆虫を鳥類が採食することがしばしば観察される。残雪上の昆虫の多くは高山帯の周囲を取り囲む亜高山帯の森林で発生し、飛翔や風により高山帯に輸送された可能性がある。しかし、残雪上に落下する昆虫の供給源は不明であり、さらに高山性鳥類の餌資源としての亜高山帯から輸送された昆虫の重要度を確かめた研究は見あたらない。そこで、長野県乗鞍岳(標高3026m)において、2019年および2020年5月から8月にかけ、半月毎に高山帯の残雪上と亜高山帯の林内で昆虫を採集し、昆虫の季節消長を比較した。また、高山帯で鳥類の採食場所を記録し、さらに糞を採集し塩基配列から糞の落とし主を特定し、糞中に残存するDNAおよび組織片から餌生物を調べた。その結果、高山帯の残雪上に落下した昆虫の個体数は6月下旬に最大となり、アブラムシ上科が優占した。アブラムシを形態で分類し、優占的な形態種について高山帯と亜高山帯で季節消長を比較したところ、両者は同調していた。残雪上で優占したアブラムシの2種は、それぞれ高山帯には分布せず亜高山帯で優占するモミ属の樹木とダケカンバに発生する種だった。鳥類は高山帯の残雪上で7月上旬まで採食した。さらに、糞中に残存するDNAを対象としたメタバーコーディング解析および糞の内容物分析から、亜高山帯で発生した昆虫の高山性鳥類の繁殖期における餌生物としての重要度を評価し報告する。


日本生態学会