| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-063  (Poster presentation)

オオバギの送粉共生:花序で繁殖するカメムシの個体群および安定同位体比の動態
Pollination of Macaranga tanarius: dynamics of population and stable isotope ratio of hemipteran species breeding on inflorescences

*鎌田一徹, 木庭啓介, 酒井章子(京都大学 生態研)
*Ittetsu KAMATA, Keisuke KOBA, Shoko SAKAI(CER. Kyoto Univ.)

 トウダイグサ科の雌雄異株植物であるオオバギでは、開花の1ヶ月前から花序の上で送粉者であるクロヒメハナカメムシ(以下、クロヒメ)が繁殖し個体数を増やす。わたしたちの先行研究で、個体数だけでなく体重もフェノロジーが進むにつれて増加していることが明らかになった。クロヒメを含むヒメハナカメムシ属の昆虫は肉食傾向の強い雑食性であり、近縁種では動物性の餌の摂取が繁殖の効率に強く影響を与えることが報告されている。オオバギの花序の上では、送粉に貢献しないアカヒメチビカスミカメ(以下、アカヒメ)も多数観察され、クロヒメと同様に開花前から繁殖を行い個体数を増やす。また、室内環境下でクロヒメがカスミカメに対し頻繁に捕食行動を示すことが確認された。わたしたちは、クロヒメはオオバギの花序内にある花外蜜に加え、アカヒメを捕食することで繁殖しており、体重増加は花序の上のカメムシ密度が増えることでクロヒメの肉食性の餌の割合が増したことによって起きたのではないかと考えた。本研究ではこれを、窒素安定同位体比分析を行うことによって検討した。
 その結果、雄株から採集されたクロヒメは体重と同様に窒素安定同位体比も開花が進むにつれて上昇していることが示された。一方、カスミカメでは、体重および窒素安定同位体比に明確な変化は見られなかった。したがって、クロヒメの同位体比の変化は餌の同位体比の変化ではなく、肉食性の餌の割合が上がったためにおきたと考えられる。また、雌株から採集されたクロヒメおよびカスミカメはいずれも体重に変化は見られなかった。
 本研究から、オオバギの雄株では、クロヒメの肉食性の餌の割合が上がることで成虫の体重増加が起きていることが示唆された。送粉者の体重の増加は、送粉者の移動性や生存率の増加を通じて植物の花粉散布に寄与している可能性がある。


日本生態学会