| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-068  (Poster presentation)

花食者ゴマシジミによる食草ナガボノシロワレモコウへの送粉者としての貢献の検証
Verification of contribution as a pollinator to the food plant Sangusorba tenuifolia var. alba by the floral herbivore Phengaris teleius

*内田葉子, 大原雅(北大・院・環境科学)
*Yoko UCHIDA, Masashi OHARA(Hokkaido. Univ. Env. Science)

植物と昆虫の種間関係において、昆虫による食害は宿主植物の成長および繁殖に負の効果を与える一方、昆虫による送粉は植物の種子繁殖に正の効果を与える。一部の昆虫では、幼虫期は植食者である一方、成虫期はその食草の送粉者へと、生活史段階によって植物との関係が変わる種が存在する(例:イチジクコバチ、オオモンシロチョウなど)。スペシャリストの花食者であるゴマシジミは、幼虫期にナガボノシロワレモコウ(以下、ナガボ)の子房や胚珠を摂食する。一方、ゴマシジミ成虫は産卵後も約1週間生存し、吸蜜のために開花したナガボに訪花することがある。このことから、ゴマシジミ成虫はナガボの送粉者として機能する可能性がある。
ゴマシジミがナガボの送粉者としての役割を持つのかを検証するため、ゴマシジミが通過できない網目サイズのネットをナガボに掛け、ゴマシジミによる訪花を防ぐ処理を実施した。ネットを掛けていないナガボとの結果率を比較した結果、ゴマシジミの訪花の有無間で結果率に差は見られなかった。つまり、ゴマシジミによる訪花はナガボの果実生産に寄与していないことが示唆された。この結果について、仮説①ゴマシジミによるナガボへの訪花頻度が低い、仮説②付着する花粉数が少ない、ことが考えられる。ゴマシジミを含めたナガボの訪花昆虫数を調査したところ、ゴマシジミの訪花頻度はアリ類と比べると低いことが分かった。また、ゴマシジミに付着したナガボの花粉数を調査したところ、ほとんどのゴマシジミでは20個程度の花粉しか付着していなかった。さらに、ゴマシジミからナガボの柱頭へ付着する花粉数を、擬似花粉として蛍光パウダーを用いて調査したところ、柱頭に付着する頻度は低いことが分かった。以上の調査結果から、ナガボとゴマシジミ間での花粉移動が少ないため、ゴマシジミは送粉者としてナガボの果実生産へ貢献する可能性は低いと考えられる。


日本生態学会