| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-096  (Poster presentation)

異なる水温の河川におけるサケ(Oncorhynchus keta)の産卵特性
Spawning traits of chum salmon (Oncorhynchus keta) under differing thermal regimes

*大場理幹(東京大学), 川上達也(北海道大学), 峰岸有紀(東京大学), 青山潤(東京大学)
*Satoki OBA(The University of Tokyo), Tatsuya KAWAKAMI(Hokkaido University), Yuki MINEGISHI(The University of Tokyo), jun AOYAMA(The University of Tokyo)

本研究では、これまでほとんど知見のない三陸沿岸河川におけるサケ (Oncorhynchus keta) の産卵環境に対する選択性を明らかにすることを目的とした。
調査は岩手県大槌湾に注ぐ小鎚川と鵜住居川で実施した。まず、2019年の小鎚川において、流域スケールでの産卵環境を明らかにするため、河口から約1 – 4 km の範囲を10区間に分け、12月10 - 11日に各区間内の10測点で河床内 (河床下20cm) の水温を測定した。また、10 ~ 12月に各旬1回踏査し、各区間内の産卵床の位置と数を記録した。続いて産卵床内の環境特性を明らかにするため、産卵盛期の12月24 - 25日に最も多く産卵床が確認された区間において、産卵床 (18点)とそこから数m程度離れた非産卵場所 (12点)の河床内水温、溶存酸素濃度 (DO)、電気伝導度 (EC)を測定した。鵜住居川については、同様の手法により2019年12月19日に産卵床内環境の測定 (産卵床、非産卵場所10点) を、2020年に産卵床の計数と流域スケールでの調査 (12月15 - 16日) を実施した。
2ヶ年の結果をまとめると、調査区間全域の河床内水温は、小鎚川で4.6~15.8℃、鵜住居川では1.0~14.0℃だった。小鎚川で計192床、鵜住居川で計360床が確認された産卵床のほとんどは、河床内水温の中央値8℃以上の区間に集中することが分かった。また、産卵床と非産卵場所の水温、DO、ECを比較したところ、鵜住居川では産卵床 (10.5℃、7.6 mg/L、91.5 μS/cm) と非産卵場所 (8.5℃、7.4 mg/L、92.1 μS/cm) に有意な差が認められなかったのに対し、小鎚川ではそれぞれ産卵床が10.0℃、8.0 mg/L、81.9 μS/cm、非産卵場所が10.7℃、5.2 mg/L、132.3 μS/cmであり、産卵床内はDOが高く、ECが低いことが明らかになった。このことは、小鎚川の産卵床が、周囲に比べて地下水の湧昇が弱い場所に形成されていることを示唆する。サケの産卵環境選択において、卵の成育に適した高い水温が確保できる場合、多量の地下水による貧酸素条件が忌避されるためと考えられた。


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