| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-132  (Poster presentation)

コオイムシの雄による卵塊保護行動のコストについて
The cost of paternal care in the giant water bug Appasus japonicus

*依田剛明(筑波大・生命環境), 佐藤幸恵(筑波大・山岳セ), 大庭伸也(長崎大・教育)
*Gomei YODA(Univ. of Tsukuba), Yukie SATO(MSC, Univ. of Tsukuba), Shin-ya OHBA(Nagasaki Univ.)

親は子の生存率を高めるために様々な投資をする。その一つに子育て行動がある。子育て行動には子の生存率の上昇という利益がある一方で、子に付き添う親にはエネルギー消費や繁殖の機会の制限等のコストが存在する。脊椎動物において子育て行動はよく見られるが、節足動物においては珍しい。その中でも、雌による保護が一般的であり、雄による保護は極めて稀である。肉食性で水生のコオイムシ科昆虫(Hemiptera: Belostomatidae)は雄が雌の卵塊を保護するという特異的な生態を持つ。この卵塊保護行動には、孵化率の上昇等の利益がある一方で、卵塊を背負った雄では遊泳能力の低下、摂食の制限、さらには寿命の短縮がみられることが室内実験で明らかにされている。捕食者の存在を考えると、野外では室内以上にコストが検出されると期待されるが、海外のコオイムシ類を対象とした先行研究では、卵塊保護行動のコストは検出されていない。本研究では、この要因の一つに不十分な調査期間があると考え、コオイムシ Appasus japonicus を対象とした長期間の標識再捕獲調査を行った。2020年3月から8月にかけて茨城県の無農薬水田一筆で44回にわたる調査を行い、966頭(雄:492頭、雌:474頭)のコオイムシ越冬個体(旧成虫)を標識した。得られた再捕獲データを解析し、モデル選択を行ったところ、性別及び保護状態は有意に生存率に影響を与え、卵塊保護をする雄の生存率はしない雄よりも低いことが示された。従って、野外における卵塊保護行動のコスト検出に成功した。しかし、調査期間別に解析を行ったところ、生存率の差の検出には繁殖期の後半、すなわち旧成虫から新成虫に入れ替わる時期(6~8月)が重要であったことから、捕食圧の影響というよりは、エネルギーコストが寿命に反映された結果ではないかと考えられた。一方、その生態からコオイムシが受ける捕食圧は小さく無いと思われるため、今後は捕食圧や捕食回避行動にも着目して卵塊保護行動の進化に迫りたい。


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