| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-165  (Poster presentation)

バイケイソウ個体群における開花同調性と花茎食害の関連性 【B】
Relationship between flowering synchrony in Veratrum album populations and predation  damage  of floral stems 【B】

*伊藤陽平, 工藤岳(北海道大学)
*Yohei ITO, Gaku KUDO(Hokkaido Univ.)

一斉開花結実現象は、数年間隔で同一集団内の開花が同調して起こることにより、大量の種子が生産される現象である。開花同調を引き起こす適応的意義の一つとして、植食性昆虫からの食害回避が重要視されているが、十分な検証はされていない。バイケイソウは北海道の低地〜高山に生育し、数年間隔で一斉開花をすることが知られている。近縁種では、生育期の低温が花芽形成のトリガーとなって一斉開花が起きることが報告されている。これまでの調査から、本種はシャクガ科幼虫に種子食害を受ける他、クロツヤバエ科幼虫の花茎食害により花生産が著しく減少することがわかった。花茎食害昆虫は高山環境に分布しないことから、高山個体群では一斉開花への選択圧が低地個体群に比べて弱いことが予想される。
本研究は、バイケイソウの開花同調性と花茎食害の関連性を調べることを目的とし、低地・高山各6個体群において調査を行った。開花個体の割合と密度を記録し、花茎食害強度、花・果実生産との関係性を解析した。また、開花を同調させるメカニズムが低地と高山個体群で異なるのかを調べるために、複数年の開花記録から気象環境との関係性を解析した。
高山個体群は、低地個体群に比べて開花同調の程度が低い傾向にあった。低地個体群では開花個体密度が高いほど、花茎食害回避を介して花・果実生産が増加した。一方で、高山個体群では開花個体密度と花・果実生産の間に明瞭な関係は見られなかった。低地個体群では2年前の生育期温度が低いときに一斉開花が引き起こされる傾向が見られたが、高山個体群ではそのような関係は見られなかった。以上から、バイケイソウでは開花前の花茎食害が開花同調性に強い選択圧として作用していると考えられた。更に花茎食害のない高山個体群では、開花を引き起こす環境トリガーの作用が低地個体群とは異なる可能性が示唆された。


日本生態学会