| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-175  (Poster presentation)

コウライテンナンショウの雌個体の翌年の性決定に関与する当年の結実への投資
Reproductive investment in current year concerned sex determination of female plant in the next year of the sex-changing plant, Arisaema peninsulae

*高橋空, 飛田千尋, 大原雅(北大・院・環境科学)
*Sora TAKAHASHI, Chihiro TOBITA, Masashi OHARA(Hokkaido Univ. Env. Science)

 サトイモ科テンナンショウ属の多年生草本であるコウライテンナンショウは雌雄異株であることに加え、雄個体から雌個体へ可逆的に性転換を行う。北海道札幌市近郊の防風林で行ったこれまでの研究から、コウライテンナンショウの性転換において、雄個体は個体サイズの増加に伴う資源の蓄積、雌個体は前年の種子生産量が関連した資源の消費によるものであることが示された。しかし、球茎内の翌年の花芽形成過程の観察により、雌個体の性決定は種子の完熟前であることが明らかとなった。そこで本研究では雌個体の性転換に着目して、資源の消費時期と翌年の性決定の関係を明らかにすることを目的として行った。
 札幌近郊の防風林内のコウライテンナンショウ個体群で、受粉、受精のタイミングや資源消費量のコントロールを含む以下の5つの操作実験を雌個体(180個体)に行った。1)袋掛けしたまま受粉させずに花序を切除、2)強制受粉直後に花序を切除(受粉あり)、3)強制受粉させて、開花終期に花序を切除(受精あり)、4)強制受粉させて、そのまま結実(種子生産あり)、5)コントロール。各処理個体について、6~10月(開花終期~種子完熟期)に毎月5個体ずつ球茎を掘り起こし、翌年の花芽の形成および発達状況の観察を行った。さらに、球茎および果実(花序)の乾燥重量を測定し、蓄積された資源の結実への投資タイミングを評価した。
 結果は、4)の処理個体のみ、6割以上が翌年雄に性転換することが明らかとなり、受粉や受精直後には資源消費による雌から雄への性転換は決定していないことが示唆された。また、球茎および果実の乾燥重量から、翌年雄に性転換した個体では花芽形成のタイミングで球茎に蓄積された資源を果実へ投資し始めることが示唆された。このことから、雌個体の翌年の性決定は受精後に行われ、当年の結実への資源投資が寄与していることが示された。


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