| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-177  (Poster presentation)

一斉開花・枯死後のスズタケの更新状況とシカの影響
Early regeneration and effect of Sika deer grazing of Sasamorpha borealis after synchronized flowering and death

*鈴木莉野(東京農工大学・院・農), 星野義延(東京農工大学・院・農), 岩﨑浩美(東京都水道局), 千葉徹也(東京都水道局), 真野佑亮(東京都水道局)
*Rino SUZUKI(Tokyo Univ. of Agri. & Tech.), Yoshinobu HOSHINO(Tokyo Univ. of Agri. & Tech.), Hiromi IWASAKI(Tokyo Waterworks Bureau), Tetsuya TIBA(Tokyo Waterworks Bureau), Yusuke MANO(Tokyo Waterworks Bureau)

ササ類は日本の夏緑広葉樹林帯において主要な林床構成種であり,長期一回繁殖性という珍しい性質を持つことから,開花後の更新過程や他の森林構成種への影響が研究されてきた.また,近年ではシカの増加による採食圧の上昇により,ササ類の衰退や成長阻害が多数報告されているが,ササ類の実生に関する研究は少ない.
本研究の対象種であるスズタケは,2010年代を中心に開花の報告がされているが,実生に関する研究は少ない.また,スズタケはシカの採食への耐性が低いことから,採食を受けて実生の更新も阻害される可能性がある.そこで本研究では,2003年から2017年までにスズタケの開花が確認された8地域(北海道厚岸町愛冠,釧路町昆布森,宮城県石巻市湊牧山,東京都水道水源林,愛知県の段戸裏谷原生林,茶臼山周辺,岐阜県中津川市,くじゅう連山)で調査を行い,開花時期や地域によってスズタケの実生の生育状況に差があるのか,シカの生息状況の差が実生の成長に影響しているかを調査した.
その結果,開花後10年が経過した地域では枯死稈が倒伏,消失しており,実生から地下茎が発生していた.実生個体密度は同じ開花年でも地域によって差があったが,開花年ごとにみると年数が経つにつれて減少しており,平均実生個体密度は2017年開花の地域で28.37個体/m²,2008年開花の地域で4.33個体/m²であった.実生の高さは年数が経つほど高くなっていたことから,開花から年数が経過するほど個体密度は減少するが,実生は成長していると言える.しかし,開花から10年以上が経過した調査地でも最大実生高は25cmとかなり小さく,2003年開花の地域ではほとんど実生がなく更新が成功する可能性は低い.また,2017年開花の地域において,シカが生息しない地域では生息する地域と比べて実生の高さが高く,シカの生息する7地域中6地域でスズタケ実生にシカの採食痕が確認されたことから,シカはスズタケ実生の成長を阻害している可能性が高い.


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