| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-204  (Poster presentation)

台風攪乱とマスティングの同時発生は小笠原諸島のシマイスノキの被害を拡大する
The simultaneous event of typhoon and masting increases the damage of Distylium lepidotum trees in the Ogasawara Islands

*中村友美(京大・生態研), 皆木寛司(京大・生態研), 河合清定(森林総合研究所), 才木真太朗(森林総合研究所), 矢崎健一(森林総合研究所), 中野隆志(富士山科学研究所), 石田厚(京大・生態研)
*Tomomi NAKAMURA(CER, Kyoto Univ.), Kanji MINAGI(CER, Kyoto Univ.), Kiyosada KAWAI(FFPRI), Shin-Taro SAIKI(FFPRI), Kenichi YAZAKI(FFPRI), Takashi NAKANO(MFRI), Atsushi ISHIDA(CER, Kyoto Univ.)

近年、地球温暖化等により、干ばつと台風の頻度や強度の増加が報告されている。このような異常気象は、樹木衰退の外的要因となり得る。一方マスティングは、繁殖器官に炭素や窒素といった資源の大量投資を必要とし、繁殖後の樹木の再生や生存に悪影響を与えることから、樹木衰退の内的要因となり得る。将来、異常気象とマスティングが同時に起こる頻度が増加すると予想される。従って、異常気象とマスティングの連続イベントが樹木の生理にどのような影響を与えるのかを明らかにすることが、気候変動下における森林生態系の将来予測のために重要である。しかし、個々の現象が樹木に与える影響に関する研究は多いが、連続イベントの影響を調べた研究はほとんどない。小笠原諸島父島では、2019年にシマイスノキがマスティング年を迎え、同年10月に非常に強い台風21号が父島を直撃した。さらに2020年夏には、厳しい乾燥が生じた。そこで、マスティングと異常気象の連続発生が樹木の生理に与える影響を明らかにするために、種子生産量と台風被害度が異なるシマイスノキの生理特性を継続的に測定した。マスティングは、直径1-2mm枝を枯死させ、シュートの総葉面積の減少と呼吸速度の増加をもたらした。さらに、太い枝(直径8-10mm)の木部貯蔵デンプンを低下させた。台風による被害は、直径1-2mm、3-4mm枝を枯死させ、個葉の光合成速度、シュートの総葉面積、枝の通水性を減少させた。このようにマスティングや台風は枝木部の貯蔵糖を減少させるように作用し、貯蔵糖が減少した個体ほど、新葉展開が阻害され、大きな枝(直径8-10mm)の枯死率も増加した。さらに2020年の乾燥した夏には、2019年に枝木部の貯蔵糖が減少した個体ほど、枝の通水性も低下していた。本研究により、異常気象やマスティングが樹木の糖欠乏を引き起こし、糖欠乏の回復が長期間阻害されることが、樹木に深刻なダメージを与えることが示された。


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