| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-214  (Poster presentation)

ブナ実生~成木でシフトする根系/地上部比(重量・表面積・呼吸)と水利用効率
Ontogenetic shift in root/shoot ratio of mass, surface area, respiration, and WUE from seedlings to mature trees in Fagus crenata

*黒澤陽子(岩手連大, 山形大学), 森茂太(山形大学), 王莫非(岩手連大, 山形大学), 西園朋広(森林総合研究所), 小山耕平(帯広畜産大学), 山路恵子(筑波大学)
*Yoko KUROSAWA(UGAS, Iwate Univ., Yamagata Univ.), Shigeta MORI(Yamagata Univ.), Mofei WANG(UGAS, Iwate Univ., Yamagata Univ.), Tomohiro NISHIZONO(FFPRI), Kohei KOYAMA(Obihiro Univ. Agr. Vet. Med.), Keiko YAMAJI(Univ. of Tsukuba)

 陸上植物は根系の水獲得と地上部の炭素獲得のバランスの上に成長が制御され、個体の根系/地上部比は環境要因や個体サイズに応じて変化する。根系/地上部比の環境に応じた最適配分理論が多く議論される一方で、サイズに応じた変化を考慮する重要性が指摘されている。しかし、実生~成木で根系・地上部の生理機能の個体レベルの実測例は殆ど無い。そこで、本研究は様々な地域のブナ実生~成木の根系と地上部の重量・表面積・呼吸の実測により、「個体全体の地上部と根の機能的つながり」を考慮したブナの統一的な成長メカニズムの解明を試みた。
 様々な産地(山形、岩手、長野、静岡、高知)、生育環境(被陰~優勢個体)のブナ芽生え~成木を地上部と根系に分け、呼吸(n = 267)、重量(n = 338)、表面積(n = 154)を測定した。この結果、緩やかな初期成長から徐々に成長加速する地上部に対し、根系は急速な初期成長に始まり大個体では頭打ち傾向を示した。以上の芽生え~成木のシフトに明確な産地間差は無く、両対数軸上で「個体重量に対して根系は上に凸、地上部は下に凸の曲線」となった。以上の傾向をモデル化することで、発芽後の根系/地上部比の増加は発芽当年夏~翌年がピークで(根系割合として、呼吸:47.8%、重量:64.3%、表面積:78.2%)、これ以降はサイズ増加に伴う緩やかな低下が示された。さらに、個体レベルで実測した水利用効率は発芽後しばらく低く、根系/地上部比のピークの後にサイズと共に高まる傾向を示した。
 以上より、成長初期の急速な根系成長が地上部成長を牽引する一方、後期の根系成長低下が地上部成長を抑制している可能性があり、「根系による地上部の牽引と抑制」がブナに統一的な成長メカニズムとして考えられる。従来、樹木成長は個葉光合成の複利モデルが中心だが、種としての統一的な成長制御メカニズムの解明には個体レベルでの根系構造・機能に着目する必要があるのだろう。


日本生態学会