| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-250  (Poster presentation)

流程分布する近縁3種のカゲロウ類における個体群構造と遺伝構造
Population and genetic structures of three closely related mayflies having the altitudinal distribution pattern

*岡本聖矢, 東城幸治(信州大学)
*Seiya OKAMOTO, Koji TOJO(Shinshu Univ.)

生物の分布域は,当該種の系統進化史や生理・生態的特性,地理・地形,地史,そして気候・気象などの環境要因などとの関連性,他の生物種群との相互作用,さらに偶然性なども含めた様々な要因が複雑に関連しあった結果として,総合的に決定される.小さな地理的空間内における近縁種間での生息域分化の事例は,ニッチ分化や多種共存,多様性創出の要因究明に好適である.特に河川生態系では,源流から河口にかけての流域ごとに,その景観は劇的に異なり,極めて興味深いフィールドである.本研究ではモンカゲロウ Ephemera 属3種の水生昆虫類を対象に,景観スケールと局所スケールの環境要因がニッチ分化にどのように寄与しているのかに迫るべく,それぞれの個体群構造を対象3種が高密度で生息する岡山県旭川水系において詳細に調査した.その結果,上流からフタスジモンカゲロウ,モンカゲロウ,トウヨウモンカゲロウの順に流程分布していることが明らかになった.3種の流程分布に関連する要因として,景観スケールでは標高,局所スケールでは開空率や底質環境といった環境要因との強い関係性が示唆された.水系内の下流域ほど類似した環境が連続的に配置されやすく,上流域ほど分断化されやすい.つまり下流域の環境に適応した種ほど,広い流程に連続的な集団を形成しやすく,水系内のより上流部(源流域など)に適応した種ほど,分集団化が促進されることになる.これらの傾向は,それぞれの流域に適応した種における遺伝子流動スケールにも大きく寄与していると考えられる.そこで,種レベルでの顕著な流程分布が示されたモンカゲロウ属を対象に,流程に対する遺伝構造を究明し,水系内における遺伝子流動の方向性や強度を追究した結果,流程分布の傾向に応じた遺伝構造が検出された.


日本生態学会