| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-286  (Poster presentation)

水辺林の環境が蘚苔類の多様性に与える影響
The effect of environmental variables of the riparian forest on the diversity of bryophytes

*内之八重友典, 山口富美夫(広島大学・院)
*Tomonori UCHINOHAE, Tomio YAMAGUCHI(Grad school, Hiroshima Univ)

 森林は様々な「生態系サービス」を提供しており,それらを継続的に利用するには森林における生物多様性と生態系の機能に関する情報の蓄積が必要である.生物多様性の指標の中でも,近年,生態系機能との関連について盛んに研究されているのが機能的多様性(Functional diversity)である.機能的多様性は環境との相互作用に関係する生物の形質(すなわち機能形質)の多様性に着目した指標である.水辺林(Riparian forest)は河川や沼地などの周辺に発達する独特の植生をもつ森林であり,蘚苔類はそのような河川・渓流周辺の環境において大きな役割を担っている植物群である.渓流周辺の環境に対する反応は蘚苔類と維管束植物で異なっているため,異なる種及び機能的多様性のパターンを示す可能性があるが,水辺林における蘚苔類の種多様性や機能的多様性については長らく注目されてこなかった.本研究では水辺林における蘚苔類の種及び機能的多様性についての基礎的な知見を得るため,(i)水辺林における蘚苔類の種及び機能的多様性,および(ii)水辺林の蘚苔類の多様性に影響を与える環境条件を明らかにすることを目的とした.本研究では,自然度の高い水辺林を有する宮崎県・尾鈴山で蘚苔類の採集及び環境条件の測定を行い,採集した標本の分類学的検討と形質値の測定,さらに得られたデータを用いた多様性の解析を行った.水辺林の蘚苔類は種多様性については維管束植物と同様に高いものの,機能的多様性については維管束植物と異なり低くなることが示された.また,各形質と渓流からの距離の相関関係について調べた結果,2種類の形質に渓流からの距離との相関関係が認められ,そのパターンは蘚苔類の環境への適応戦略の変化を反映していることが示唆された.さらに,水辺林に生育する蘚苔類の種多様性は気温に,機能的多様性は湿度や落葉被覆率に影響を受けていることが明らかになった.


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