| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-315  (Poster presentation)

予測不能な季節変化における蚊の最適な休眠戦略
Optimal dormant strategy of mosquitoes in unpredictable variation within the season

*桑野友輔(総合研究大学院大学), 佐々木顕(総合研究大学院大学, IIASA)
*Yusuke KUWANO(SOKENDAI), Akira SASAKI(SOKENDAI, IIASA)

多くの生物は予測不可能な環境変動の中で生活しているため、生育や繁殖などの重要な生活史を環境に合わせることは困難である。その中で、蚊の一部の種類は生存に劣悪な環境を越えるため生活史の中に休眠ステージを持つ。蚊は感染症を媒介する生物としても知られており、その個体群動態を知ることは蚊が媒介する感染症のリスクを予測する上で重要である。しかしながら、野外データや実験データが欠如しているため詳細な休眠条件の解明やモデル化は進んでいない。そこで、本研究では将来気候下における蚊の個体群動態を知るために、蚊の詳細な生活史を取り入れ、蚊の起源である熱帯において、その進化的に安定となる休眠戦略を明らかにするような数理モデルの開発と解析を行った。
蚊は活動シーズン内で複数回の世代交代を行っているため、シーズン間だけでなくシーズン内の環境変化による休眠戦略の進化についても解析する必要がある。そこで、シーズン内の世代交代サイクルに休眠ステージを組み込むことでモデル化をした。また、生育環境は乾期と雨期を想定し、生存率が乾期に低く、雨期に高くなるよう設定した。このモデルを用いて、環境条件となる乾期と雨期による生存率の変化の周期に応じて進化的に安定な戦略(ESS)となる休眠率を求めた。
その結果、環境変化の周期が長期であるほど進化的に安定な戦略(ESS)となる休眠率が増加していることが分かった。これは、環境の長期変動下では生育に良い環境が長く続くため密度効果によって適応度の頭打ちの効果が大きくなり、生育に悪い環境への対処がより重要になることから休眠がより促進されたからである。
ヒトスジシマカは熱帯から温帯にかけて生息しており、温帯のものだけが生活史に休眠を持つ。温帯は熱帯に比べ、周期の長い環境変化をしており、この環境変化の周期が温帯のヒトスジシマカの休眠戦略を促進させた要因の一つになったと考えている。


日本生態学会