| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-330  (Poster presentation)

野外観測で進化と群集のフィードバックを見ることが出来るか?
Can we see eco-evo feedback in field observations?

*南雲優哉(北海道大学)
*Yuya NAGUMO(Hokkaido Univ.)

迅速な進化と生態群集の動態が同じ時間スケールで相互に影響を及ぼしあうという認識が広まりつつある。しかし、このようなフィードバックの検証は培養系やメソコズムのような人工的な閉鎖環境での報告にとどまっている。これは、フィードバック原理の実証について、複雑な自然生態系の中で行うのは困難だからである。そのため、人工環境で検知される過程が自然界でも重要な意義を有しているとは限らない。そこで本研究では生物群集が進化に与える影響と進化が生物群集に与える影響の両方に関して豊富な知見の蓄積されている系をモデルとして野外観測によって進化と生態のフィードバックの実態を検証することを目的とする。その系とは、植食性昆虫の一種であるヤナギルリハムシPlagiodera versicolora(以下、ハムシ)の資源利用のスペシャライゼーションの進化と、同じ寄主植物(ヤナギ)上の昆虫群集の双方向相互作用系である。
本研究では石狩川流域200kmを調査地とし、その多地点でハムシとその周りの昆虫群集の調査を行った。またハムシの進化とそれをとりまく昆虫群集の相互作用において、寄主植物の可塑的な再成長が重要なファクターであるため、奇主植物オノエヤナギSalix sachalinensisの枝についても採取を行った。ハムシのスペシャライゼーションに関する遺伝変異については、関連する一塩基多型についてTaqmanプローブ法で分析を行った。昆虫群集については科レベルまでの同定を行った。それらをもとに、遺伝子頻度の時空間変異と昆虫群集構造の時空間変異の関連について解析を行った。
結果として、2018年のハムシの遺伝子頻度が2019年の昆虫群集構造に、2019年の昆虫群集構造が同年のハムシ摂食形質に、2019年のハムシ遺伝子頻度が2020年の昆虫群集構造に影響を与えていることが示唆された。また、遺伝子頻度とヤナギの再成長の間にも因果関係が認められた。以上より、進化と群集動態のフィードバックが野外観測より検出できた。


日本生態学会