| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-341  (Poster presentation)

外来種2種(ネコとクマネズミ)におけるトキソプラズマの抗体保有状況と生息環境の関連
Association between seroprevalence of Toxoplasma gondii and habitat use in two invasive species (cats and black rats)

*岡田その(東京大学), 亘悠哉(森林総合研究所), 三條場千寿(東京大学), 所司悠希(東京大学), 宮下直(東京大学)
*Sono OKADA(Univ. of Tokyo), Yuya WATARI(FFPRI), Chizu SANJOBA(Univ. of Tokyo), Yuki SHOSHI(Univ. of Tokyo), Tadashi MIYASHITA(Univ. of Tokyo)

人獣共通感染症が増加傾向にある近年、外来種による生物多様性への影響が社会に広く認識されてきた一方で、外来種が持ち込み拡大させる感染症については比較的知見が少なく、野外における感染リスクを緩和させる取り組みもほとんどない。トキソプラズマ症は、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)によって引き起こされる人獣共通感染症である。ネコ科動物を終宿主とし、ほぼすべての温血動物に感染し、場合によって野生動物にもヒトにも重篤な症状が現れる。そのため、トキソプラズマの伝播プロセスを解明し感染リスクを低減させるための知見の集積が必要である。本研究では、外ネコの高いトキソプラズマ抗体陽性率が確認されている徳之島において、終宿主であるネコと、その主要な餌生物であり原虫のライフサイクルの一翼を担う中間宿主と考えられる外来種クマネズミについて、トキソプラズマ抗体保有状況を生息環境との関連性に注目して景観解析を行った。その結果、環境要因との明確な関係性は見出されなかった一方で、周辺に畜舎が多い場所でネコとクマネズミ双方の抗体保有状況が高いことが判明した。既存研究により、島に1、000ほどある畜舎の約半数でネコへの餌付けが行われ、外ネコの個体群ソースを創出していることが分かっている。さらに、クマネズミはネコよりも小スケールでの畜舎密度が効いていることもわかった。以上から、ネズミが高密度で生息し、餌付けもされている畜舎の存在が、徳之島におけるネコの高いトキソプラズマ抗体陽性率に関与していることが示唆された。またクマネズミの高い陽性率は、ネコから排出された原虫が土壌や水といった環境を介し、中間宿主へスピルオーバーしていることの証拠でもあり、ヒトや家畜への感染リスクの指標ともなりうると考えられる。外ネコ管理と適正飼養は、生態系保全だけでなく感染リスク対策としても必要である。


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