| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-352  (Poster presentation)

伊豆大島における外来種キョン(Muntiacus reevesi)の胃内容物組成 【B】
Stomach content composition of muntjac  (Muntiacus reevesi) , an exotic herbivorous mammal species in Izu-Oshima island 【B】

*中嶋美緒(筑波大学), 上條隆志(筑波大学), 尾澤進二(東京都立大島公園)
*Mio NAKAJIMA(Tsukuba Univ.), Takashi KAMIJO(Tsukuba Univ.), Shinji OZAWA(Oshima island park)

キョン(Muntiacus reevesi)は、特定外来生物に指定されているシカ科ホエジカ属の草食獣である。千葉県と東京都の伊豆大島に侵入し、いずれでも防除事業が行われているが、キョンの生態情報や被害データの不足が指摘されている。特に海洋島である伊豆大島の生態系は外来種に脆弱と考えられ、キョンによる生態系への強い影響が危惧されている。そこで本研究では、伊豆大島のキョンの食性の解明を目的とし、胃内容物分析によってキョンの採餌が影響しうる植物分類群の検討を行った。
胃内容物分析では、2019年9月から2020年7月の4シーズンの間に東京都のキョン防除事業で捕獲された計42個体の胃内容物を使い、5mmメッシュのふるいおよび1cm幅の格子の400交点を利用したポイント枠法によって内容物を評価した。データ分析として、序列化等による季節性の検討、および現地の食性データとの対応による各採餌物への選択性の検討を行った。
 キョンの胃内容物の組成には季節性がみられ、夏から秋は広葉樹の葉、冬から春はツバキの花や常緑広葉樹の葉の占有率が高かった。特に特徴的だったのは、冬・春のヤブツバキの花の高い占有率であり、もう一つの侵入地である千葉県では見られない傾向であった。現地の植生データと対応させた結果、ミズキやテイカカズラ等のほか、東京都絶滅危惧種を含むグループであるシュスラン属の選択的な採餌が示唆された。伊豆大島のキョンは、基本的に利用可能性が高く質の高い餌資源を採餌するが、一部の種やシュスラン属を選択的に採食すると考えられる。シュスラン属については選択的な採餌圧が継続すれば今後の個体群の縮小が懸念されるため、植生保護柵の設置拡大が急務だと考えられる。


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