| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-402  (Poster presentation)

カメラトラップにおけるニホンジカとイノシシの滞在時間に影響を与える環境要因
Environmental factors that affect staying time of sika deer and wild boar in camera trapping

*宮本航雅(東京大学), 鈴木牧(東京大学), 中島啓裕(日本大学), 矢島豪太(日本大学)
*Koga MIYAMOTO(The University of Tokyo), Maki SUZUKI(The University of Tokyo), Yoshihiro NAKASHIMA(Nihon University), Gota YAJIMA(Nihon University)

 近年、シカやイノシシが増加し、生態系に影響を及ぼしている。シカは植物や土壌動物、埋土種子等を減らすことが知られるが、イノシシは植物や土壌動物を減少させることも、植物を増加させ、深部土壌中の埋土種子を浅部に移動させることもあり、これらの生物に対して総合的に正と負どちらの影響を及ぼすのかは不明である。そこで、房総半島南部に2㎞メッシュ単位で設置されたカメラトラップを利用して、シカやイノシシの生態系への影響を調べた。このシステムではカメラ前のシカとイノシシの来訪頻度を正確に把握でき、来訪頻度と生態系の状態の対応を検討できる。
 過去に撮影されたカメラトラップのデータから、シカとイノシシの撮影頻度が異なる24か所(人工林、二次林各12か所)の撮影地点を選び調査地とした。各調査地において植生,土壌動物,埋土種子,土壌硬度,リター層の深さなどを調査した。各地点におけるシカとイノシシの密度指標には、撮影時間をカメラ稼働日数で割った「撮影効率」を用いた。また。千葉県のシカ糞粒数データより過去のシカ密度(DDI)も算出し、シカの履歴効果も検討した。構造方程式モデリングによる分析の結果、イノシシの撮影効率が高いとリターが減少し土壌硬度が上昇する一方、掘り返しによる土壌硬度の低下も示唆された。また、過去のシカ密度が高い場所では土壌硬度の増加やリター量の減少が起こりやすい傾向があった。これらの影響は一部の土壌動物を減少させ、波及的に土壌動物相全体を減少させていた。先駆樹種の埋土種子が多かった地点ではイノシシが多い傾向が認められ、イノシシがこれらの種子を浅部土壌に移動させていた可能性が示唆された。以上より、シカが土壌に負の影響を及ぼす一方、イノシシは土壌に負の影響だけでなく正の影響ももたらすため、シカと比較すると生態系への影響は小さい可能性が示唆された。


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