| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-405  (Poster presentation)

農業用水路における魚類の生息場改善:バーブ工を用いた事例
Improving of the fish habitat in agricultural irrigation ditch: a case study of barb construction

*桑名志, 佐藤雄大, 河口洋一(徳島大学大学院)
*Kokoro KUWANA, Takahiro SATO, Yoichi KAWAGUCHI(Tokushikma Univ.)

農業用水路は送水の効率化を求めてコンクリート3面張りに改修され,魚類の移動分断や,流路の単純化により生息環境が悪化している.そのような単純化された水路や河川流路の環境の修復技術として,川の流れや河床材料の多様性を回復させることの出来るバーブ工に関心が寄せられている.本研究では,徳島県国府町において,コンクリート3面張り護岸の施された農業用水路を対象に,魚類の生息場創出のためバーブ工を施工し,これに伴う物理環境の変化や魚類群集の反応を明らかにし,改修後の生息場改善効果について検証することを目的とした.調査はバーブ設置前の2018年9月,設置後の11月,2019年5月,9月,11月の計5回行った.また農業用水路にバーブを設置したことによる物理環境及び魚類の生息状況の変化を検証するため,BACI(Before-After-Control-Impact)デザインを採用し,バーブの設置前後における比較を行った.調査結果より,水深,流速共にバーブの設置前後の変動係数でばらつきが大きい結果となり,流れの多様性を確認することが出来た.魚類調査では,バーブ設置前には確認されなかったニホンウナギやナマズなど6種が新たに確認された.出現魚種はバーブ設置以降,バーブ区で多く確認することが出来た.採捕数はバーブ設置前の調査と比べると設置直後が一番多く,3,4回目は非常に減少していた.約1年後の5回目の調査では採捕数が増えたが,前年と比べるとかなり減少していた.また,特に捕獲数の多かった5種について,魚種ごとにバーブ設置による個体数の変化を解析した結果,カワムツ,タモロコは,バーブ設置による有意な個体数の増加が認められた.これらの結果から,バーブの設置により流れが多様に変化し,バーブ周辺の環境が一部の魚種にとって好適な環境が形成されたと考えられる.単純化した農業用水路にバーブ工を施工することで,魚類の生息場改善の可能性が示唆されたが,より長期間の評価が必要と思われる.


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