| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-007  (Poster presentation)

干潟の巻き貝ウミニナにおける個体群動態の地域間変動:カゴ実験による広域比較
Regional variation in the population dynamics of an intertidal snail Batillaria multiformis : comparison by field rearing experiments

*伊藤萌(国立環境研究所), 木村妙子(三重大学), 三浦収(高知大学), 山本智子(鹿児島大学), 五十嵐健志(むつ市海と森体験館), 山本康平(三重大学), 中井静子(日本大学), 金岩稔(三重大学), 増渕隆仁(三重大学), 金谷弦(国立環境研究所)
*Hajime ITOH(NIES), Taeko KIMURA(Mie Univ.), Osamu MIURA(Kochi Univ.), Tomoko YAMAMOTO(Kagoshima Univ.), Takeshi IGARASHI(Mutsu City Nature Center), Kohei YAMAMOTO(Mie Univ.), Shizuko NAKAI(Nihon Univ.), Minoru KANAIWA(Mie Univ.), Takahito MASUBUCHI(Mie Univ.), Gen KANAYA(NIES)

 ウミニナは、本州から沖縄にかけて分布する干潟の巻貝である。本種は広域的に分布することから、緯度間の環境の違いによって生態に影響を受けることが予想され、海洋気候の変動による底生動物への影響を評価するためのモデル生物としての利用が期待される。現在、国内の5か所(青森県陸奥湾、宮城県松島湾、三重県伊勢湾、高知県浦ノ内湾、および鹿児島県鹿児島湾)において本種の個体群動態調査を実施している。
 2019年から2020年に各調査地において、未成熟のウミニナを入れたケージを設置して野外飼育実験をおこない、2ヶ月に一度各個体の殻長を測定し、成熟の指標である滑層瘤の発達度合いを記録した。得られた殻の成長量からStochasticEMアルゴリズムによって成長曲線を推定し、ベイズ情報量を規準に調査地ごとの成長パターンを比較した。また、現場の個体について、2ヶ月に一度、生殖腺の目視観察と組織切片観察を行った。生息環境情報取得のため、ロガーによる地温の連続計測を行い、底土と海水中のクロロフィルa量と炭素および窒素量を2ヶ月に一度測定した。
 野外飼育実験において、青森と宮城では4月から10月にかけて殻長の成長が見られた。一方、三重、高知、および鹿児島では4月から12月までの期間に成長が見られた。最大殻長および滑層瘤の形成開始殻長は、高緯度の地点ほど大きくなった。成長曲線推定の結果から、高緯度域(青森、宮城)、中緯度域(三重)および低緯度域(高知、鹿児島)で成長が異なり、高緯度になるほどゆっくりと大きく成長する傾向が示された。一方、組織切片観察から、ウミニナは青森〜鹿児島のいずれの地点でも6月から8月に産卵をしていると推定され、緯度間での明確な差異は見られなかった。
 以上の結果は、ウミニナの成長特性が緯度間で明瞭に異なる事を示していた。発表では、地点間での繁殖サイズや生息環境の違いについても検討を行う。


日本生態学会