| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-045  (Poster presentation)

小型種子をつける植物でも大型種子散布者が必要
Small-seeded plants need large seed dispersers

*中林雅(広島大学), Eyen KHOO(FRC, Sabah, Malaysia)
*MIYABI NAKABAYASHI(Hiroshima University), Eyen KHOO(FRC, Sabah, Malaysia)

本研究の目的は、大型果実食者の喪失が小型種子をつける植物の種子散布に与える影響を評価することである。
近年、熱帯地域で人為的攪乱などに起因する大型果実食者の喪失による生態系への影響が懸念されている。大型果実食者が大型種子をつける植物の種子散布に貢献することは明確だが、小型種子をつける植物について着目した研究はほとんど存在しない。イチジク属は小型種子をつける代表的な植物で、ほとんどの動物がイチジクの果実を採食できる。しかし、イチジク属には、果肉(花序)が厚く、果実の直径が10センチを超える種が存在する。小型動物は、しばしばそうした果実の果肉だけを採食し、種子を散布しない。したがって、そうした種は小型種子の散布を大型動物に依存していると考えられる。
本研究では、ボルネオ島マレーシア領サバ州の3つの調査地(状態がよい森林、近年大規模に伐採された若い森林、大型動物を喪失した森林)で、イチジク属の密度と果実サイズを比較した。また、比較対象として大型種子をつける植物(ドリアン属)の密度を状態がよい森林と大型動物を喪失した森林で比較した。
状態がよい森林のイチジク属の密度は大型動物を喪失した森林よりも高かったが、若い森林とでは有意差は見られなかった。果実サイズも同様の傾向を示した。また、状態がよい森林のドリアン属の密度も大型動物を喪失した森林よりも高かった。
これらの結果から、大型果実食者の喪失は大型種子だけでなく、小型種子をつける植物にも負の影響を与えていることが示唆される。アジア熱帯のイチジク属の果実は、多くの動物に救荒食物として利用される非常に重要な食物源である。それゆえ、イチジク属の個体群や密度の減少・低下は動物の生存に直接影響する可能性がある。今後、大型種子だけでなく、小型種子をつける植物にも着目して、大型果実食者の局所的な絶滅による生態系への影響について更なる調査が必要である。


日本生態学会