| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-067  (Poster presentation)

ニホンジカへのGPS首輪自動装着:閉鎖機構の改良、野生個体への装着と追跡
Automatic mounting of GPS collars on sika deer: Improvement of closure mechanism, mounting and tracking on wild individuals

*大場孝裕(静岡県農技研森林研セ)
*Takahiro OHBA(FFPRI Shizuoka Pref.)

近年、日本各地でニホンジカ(以下「シカ」という。)が増加し、農作物や造林木の食害が深刻化している。植生への影響も大きく、自然生態系が改変されている。被害や影響を減じるためには、対峙するシカの動きの情報を収集し、その分析に基づく防除対策を講じることが重要である。
シカの首にGNSS(衛星測位システム)受信機を組み込んだテレメトリー送信機(以下「GPS首輪」という。)を装着することで、行動を客観的に把握できるようになる。任意の間隔で測位し、位置情報を蓄積することで、行動圏やコアエリアの面積、日周行動や季節移動の時期と経路がわかる。気象や植生、地形など環境条件を加えて分析することで行動要因を明らかにしたり、活動センサーの値を参照して、休息場所を知ることもできる。高頻度に測位すれば、より細かな経路や移動速度が求められ、測位間隔を長くして電池の消耗を抑えれば、2年以上追跡することも可能である。捕獲など人間の行為に対する反応の確認、接近しての直接観察や個体識別にも活用できる。
このようにGPS首輪は有用なツールであるものの、前提となる野生個体を無事に生け捕ることが難しいという課題を抱えている。
そこで、メスジカに自動でGPS首輪を装着する方法の開発に取り組んできた。メスジカは頭囲に対して首囲が12cm以上細く、抜けない絞めない首輪をワンサイズで用意できる。第68回大会(2018)で発表した自動装着型GPS首輪は、引きバネの力で首輪が収縮して取り付いたが、外れやすい機構であった。今回、外れにくく装着されやすくなるよう、GPS首輪の一部を開放した状態で給餌器にセットし、シカが採食のため給餌器に首を入れトリガーを押すとGPS首輪のアームが閉じてロックが掛かる機構に改良した。この自動装着型GPS首輪を用いて、複数の野生個体への自動装着に成功し追跡を行った。この技術によりGPS首輪の利便性が高まり、シカ対策ツールとしての活用が期待される。


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