| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-071  (Poster presentation)

捕食者にも同種メスにも発せられるウグイスの谷渡り鳴き:メスの反応
Continuous song of Japanese bush warblers against predators and conspecific females: female response to models

*濱尾章二(国立科学博物館)
*Shoji HAMAO(Natl Mus Nat Sci, Tokyo)

ウグイスのオスは繁殖期に「ホーホケキョ」などと聞こえるふつうのさえずりのほかに、「ピルルルケッキョケッキョ......」などと聞こえる、長く続く谷渡り鳴きをすることがある。この音声は捕食者、同種メスのいずれもがきっかけとなって始まることがあるが、その機能はわかっていない。演者の今までの研究から、以下のことが明らかになった:(1)谷渡り鳴きはさえずりよりも遅くメスとのつがい形成期以降活発になる、(2)メスがいるなわばりで谷渡り鳴きが活発に行われる、(3)タカ、ウグイスメスのいずれがきっかけとなって起こる谷渡り鳴きも音響学的に違いがない。本研究では、信号の受信者である可能性が考えられるメスが谷渡り鳴きを聞いた際の反応を明らかにすることを目的に、飼育下で音声再生実験を行った。捕獲し、餌付けしたウグイスメスを雑木林内に設置した禽舎に移し1時間以上慣らした後、10m離れた地点のスピーカーから音声を再生し、反応を記録した。再生したのは谷渡り鳴き、さえずり、ホワイトノイズの三つである。再生はそれぞれ3分間行い、その直前の3分間とメスの行動を比較した。音声再生の順はランダムに決め、再生の間隔は13分以上空けた。同じメスに対して、同様の実験を3時間後にもう一度行った(ただし、三つの音声の再生順は変えた)。実験には7羽のメスを用いた。メスの反応は再生する音声によって違いが見られなかった。メスはいずれの音声に対しても、接近するあるいは遠ざかるという一定の傾向を示さなかった。動きが活発になるあるいは不活発になるという傾向もなかった。このことは、谷渡り鳴きがメスに危険を知らせる警報の機能をもつと考えると説明し難い。今後、谷渡り鳴きはメスへの求愛、あるいは捕食者に対し襲撃をやめさせる機能をもつという仮説の検討を進めたい。


日本生態学会