| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-083  (Poster presentation)

キツリフネにおける早咲き型、遅咲き型は標高の上下で遺伝分化しているか?
Are early and late flowering ecotypes of Impatiens noli-tangere genetically differentiated among elevations?: an analysis using MIG-seq method

*江川信(信大・理), 田路翼(信大・理), 中瀬悠太(信大・理), 廣田峻(東北大・農), 陶山佳久(東北大・農), 市野隆雄(信大・理)
*Shin EGAWA(Shinshu Univ.), Tsubasa TOJI(Shinshu Univ.), Yuta NAKASE(Shinshu Univ.), Shun K HIROTA(Tohoku Univ.), Yoshihisa SHUYAMA(Tohoku Univ.), Takao ITINO(Shinshu Univ.)

 キツリフネImpatiens noli-tangereは湿った環境を好む一年生草本で、本州中部では標高0~2000mの幅広い標高帯に分布する。長野県の複数山域においてキツリフネの開花時期は標高傾度に沿って不連続に変異することがわかっており、長野県安曇野市三郷で行われた観察では、標高1000m付近を境に、それより低い標高では開放花の開花時期が7月下旬~9月下旬と遅く、それより高い標高では6月下旬〜8月下旬と早かった。また、境界にあたる標高1000m付近では、早咲き個体と遅咲き個体が同所的に分布しており、両者間では葉の形質も異なっている。これらを踏まえ本研究では、三郷での早咲き型と遅咲き型の遺伝分化の有無、および長野県内広域における標高間の遺伝分化の有無について検討した。
 長野県37地点と北海道5地点において各地点4~8個体ずつ葉サンプルを採取した。なお、計42地点のうち早咲き型であるか遅咲き型であるかの区別のついているのは三郷の3地点のみである。全サンプルについてMIG-seq法により得られたSNPsを用いて解析を行った結果、まず、分子地理系統樹では地理的距離の近い地点ごとに系統がまとまった。すなわち、長野県周辺については御嶽山域、美ヶ原山域、乗鞍山域、三郷山域の系統が大きく分かれた。次に、この4山域それぞれについて標高上下での遺伝分化の有無を調べたところ、御嶽山域以外の3山域においては、高標高と低標高がそれぞれ別の亜系統に分かれる傾向が認められた。最後に、三郷の早咲き型と遅咲き型はそれぞれ別の亜系統に分かれた。特に両型の境界にあたる標高1000mの上下では、直線距離が数100mの2地点間でも大きな遺伝的相違が認められた。このことから、少なくとも三郷では遺伝的に異なる集団が分布を接していることが明らかになった。


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