| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-109  (Poster presentation)

夏落葉低木ナニワズのSPAD値(葉緑素量)の2年間の季節変化
Seasonal changes in SPAD values (chlorophyll content) of summer deciduous shrub Daphne jezoensis over two years

*橋本徹(森林総研北海道)
*Toru HASHIMOTO(FFPRI Hokkaido)

 ナニワズは7月上旬に落葉、8月下旬に越冬葉を開葉し、翌春には春葉を追加開葉する。夏落葉は林床が暗い時期の葉維持コストを節約する戦略と考えられる。一般に葉は開ききった直後に光合成活性が最も高い。葉維持コストを節約するために落葉したとすれば、光合成活性の高い重要な時期をまだ暗い9月に合わせるのは理解しにくい。葉は物理的防衛が確立するまでは被食に対して脆弱なので、その間、窒素を葉に充填するのを控える戦略(遅延緑化)がある。ナニワズは、遅延緑化で早めに開葉し、上木が落葉する頃に光合成活性の高い時期を合わせているという仮説を立てた。また、春葉は、林床が明るく、多くの光合成生産が可能な時期に開葉するので、越冬葉と比べて質の高い葉である可能性がある一方、2ヵ月しか維持しないことから低質の可能性もある。そこで、SPADとSLAを指標として、越冬葉と春葉の葉特性を調べた。
 2019~20年の無雪期間、特定の12個体の葉数を毎週数えた。また、SPADで葉緑素量を測定した。6月に別の数個体から健全な越冬葉と春葉を1枚ずつ採取し、SLAとSPADを測定した。光環境は閉鎖林冠下で、光量子センサーで測定した。
 越冬葉のSPADは開ききった後も増加し10月頃安定する傾向が見られた。開ききった直後の値と、測定最後3回の平均値の比は約0.74で、弱程度の遅延緑化と考えられた。しかし、10月以降も林床の光環境はほとんど改善せず、越冬葉は暗い光環境下で成熟葉を展開していた。春葉のSPAD最大値は越冬葉の約73%だった。6月に採取した越冬葉と春葉のSPADとSLAの関係では、一本の個体を除いて、いずれも春葉のSPAD値が越冬葉より低く、SLAはより広かった。
越冬葉は遅延緑化していたが、上木落葉のタイミングに合わせたものではなかった。また、春葉は越冬葉より低質の葉だった。


日本生態学会