| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-119  (Poster presentation)

乗鞍岳の高木限界に優占する落葉広葉樹と常緑針葉樹の光合成および水分生理特性
Photosynthetic and water use characteristics in deciduous broad-leaved and  evergreen coniferous trees growing at the timberline of Mt. Norikura

*鎌倉真依(京都大学), 東若菜(神戸大学), 矢原ひかり(信州大学), 高木優哉(京都大学), 牧田直樹(信州大学)
*Mai KAMAKURA(Kyoto Univ.), Wakana A AUZMA(Kobe Univ.), Hikari YAHARA(Shinshu Univ.), Masaya TAKAGI(Kyoto Univ.), Naoki MAKITA(Shinshu Univ.)

 高山植生は、特有の樹種で構成されていることや樹木の分布境界域が存在することから、環境変動に対する生物多様性の脆弱性が指摘されている地域である。標高が上昇すると、低温、強風、冬季の積雪および土壌栄養の低下など、植物の成長に厳しい環境条件となる。本研究では、高標高下に生育する樹木の光合成および水分生理特性を明らかにすることを目的とし、長野県の北アルプスに位置する乗鞍岳の高木限界(標高2,500 m)に優占する落葉広葉樹(ウラジロナナカマド、ダケカンバ)および常緑針葉樹(オオシラビソ、ハイマツ)を対象に、(1) 個葉光合成速度 (A)、気孔コンダクタンス (gs) および葉の水ポテンシャル (Ψleaf) の日変化測定、(2) P-V (Pressure-Volume) 曲線法を用いた葉の水分特性評価、(3) SPAC (soil-plant-atmosphere-continuum) モデルを用いた個体全体の水分特性評価、(4) 地上部の純一次生産量 (NPP) の推定を行った。調査は、2018年7月末から8月初旬、2019年7月末から8月初旬および9月中旬にかけて行った。
 本研究の結果、光合成および水分生理特性には、各樹種に特徴的な傾向が見られた。同じ落葉広葉樹においても、ウラジロナナカマドは、気孔制御や葉の浸透調節を行うことによって体内の水分を保持し、水利用効率 (A/gs) を高めていたが、一方でダケカンバは、土壌―葉の通水性が高いことにより、A/gsが低くても常に高い光合成・蒸散速度を維持していた。常緑針葉樹においては、オオシラビソは、気孔制御、高い葉の飽水量および土壌―葉の通水性といった特性により、体内の水分を保持しながら光合成速度を維持していたが、一方でハイマツは、葉における細胞壁の弾性率や貯水性が高いことにより失水を回避し、A/gsが低くても常に安定した光合成を維持することが示された。また、落葉広葉樹のウラジロナナカマドとダケカンバではリター生産量が大きく、高木になるダケカンバとオオシラビソでは幹生長量が大きかった。


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