| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-157  (Poster presentation)

アーバスキュラー菌根菌共生・非共生のトウモロコシ苗の窒素安定同位体比分布の比較
15N allocation in arbuscular mycorrhizal and non-mycorrhizal maize seedlings

松本昌也, *松尾奈緒子, 山川大輔, 松田陽介(三重大学)
Masaya MATSUMOTO, *Naoko MATSUO, Daisuke YAMAKAWA, Yosuke MATSUDA(Mie Univ.)

陸上植物の多くは窒素などの無機養分を根の表皮細胞からだけでなく, 根に共生するアーバスキュラー菌根菌(以下, AM菌)を介して吸収しているが, どの程度AM菌に依存しているか十分には理解されていない. 窒素制限下では植物による窒素吸収の際に同位体分別が起こらないとされ, 植物体の窒素安定同位体比と土壌中の無機態窒素のそれとの照合による植物の窒素源の推定が行われてきた. しかし, AM菌と宿主植物の間で同位体分別が起こることが報告されており, AM菌共生植物の窒素安定同位体比は窒素源のそれを反映していない可能性がある. 本研究では, トウモロコシをAM菌感染区(AMF+)と非感染区(AMF-)とに分けて2段階の窒素条件下(N+, N-)で栽培し, AM菌が宿主植物の窒素量や窒素安定同位体比の器官間分布に及ぼす影響を調べた.
その結果, 同一窒素条件内において器官間の窒素配分は結実前にはAMF+とAMF-間で有意差がなかったのに対し, 収穫時の実への配分はAMF+の方が多かった. よって, AM菌感染により結実期間中に個体内の窒素配分が変化したことがわかった. 各器官の窒素安定同位体比を窒素量で重みづけして算出した個体全体の窒素安定同位体比の平均値と施与した硝酸アンモニウム溶液の窒素安定同位体比の差は器官間での差よりもはるかに小さかったことから, 本実験において細根または菌根菌糸を介した窒素吸収時の同位体分別は小さく, 器官間の同位体分布は個体内での代謝や転流などの過程で生じたことが示唆された. 実の窒素安定同位体比はN+よりもN-において有意に高く, かつ結実前後で葉の総窒素量がN+では変化せず, N-では減少したことから, 葉など他器官から実に転流した窒素の寄与が大きいほど実の窒素安定同位体比が高くなることが示唆された. また, 同一窒素条件内ではAMF+の方がAMF-よりも実の窒素安定同位体比が高かったことから, AM菌感染によって増加した実の窒素化合物は高い窒素安定同位体比を持っていたと考えられた.


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